と大次郎が、小雨を相手に独り言を洩らした時、勘治村かんじむら道士川どうしがわと越えてくる甲斐すじの登り口から、りょうりょうと一節の、何の煩悩もないような今時花恋慕流いまはやりれんぼながしの唄声が、上がって来た。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)