悲しみの代価かなしみのだいか
彼は窓の敷居に腰を下ろして、菜園の方を眺めてゐた。 「あなたお湯へいらつしやる?」と妻が勝手元から、訊いた。 彼は默つてゐた。近頃殊に彼は妻が自分の妻だと思へなくなつて來てゐた。 妻は小さな金盥を持つて彼の傍へ來た。 「いらつしやらないの。 …