五月ごがつ
電車は恍惚とした五月の大気のなかを走った。西へ傾いた太陽の甘ったるい光は樹木や屋根の上に溢れ、時としてその光は房子の険しい額に戯れかかった。何処の駅に着くのか何処を今過ぎてゐるのか、まるで乗客はみんな放心状態にあるやうな、さう云った一時であ …