度外どはず)” の例文
引捻ひんねじれた四角な口を、額までかつと開けて、猪首いくび附元つけもとまですくめる、と見ると、仰状のけざま大欠伸おおあくび。余り度外どはずれなのに、自分から吃驚びっくりして
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つい知らず度外どはずれになっていたと気がつくと、あわてて自分で自分の口を押えながら、忙がわしく左と右を見廻しました。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高時が度外どはずれにはずむと、女性の声帯そっくりな奇声になる。彼は手を打って、きゃっきゃっと笑い出しながら
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篇中の性格を裏返しにして人間の腹の底にはこんな妙なものがひそんで居ると云う事を読者に示そうとするには勢い篇中の人物を度外どはずれな境界きょうがいに置かねばならない。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
マリヤンには五歳いつつになる女の児がある。夫は、今は無い。H氏の話によると、マリヤンが追出したのだそうである。それも、彼が度外どはずれた嫉妬家やきもちやであるとの理由で。
現代では度外どはずれということや、突飛とっぴということが辞典から取消されて、どんなこともあたり前のこととなってしまった。実に「驚異」横行の時代であり、爆発の時代である。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
蝋質撓拗症フレキシビリタス・ツェレア⁉」それにはさしもの検事も、激しく卓子テーブルゆすって叫ばざるを得なくなった。「莫迦ばかな、君の詭弁も、度外どはずれると滑稽になる。法水君、あれは稀病中の稀病なんだぜ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その声が度外どはずれに高いので、お葉は慌てて四辺あたりみかえった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
度外どはずれに大きな電燈を室内へ点じた如き調子である。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
小額の金に対する度外どはずれの執着心が殊更ことさらに目立って見えた。要するにすべてが父らしくできていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
現代では、度外どはずれということや、突飛とっぴということが辞典から取消されて、どんなこともあたりまえのこととなってしまった、実に「驚異」横行の時代であり、爆発の時代である。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
これは少し度外どはずれだ、名前そのものは度外れでないにしても、図柄そのものが、度外れだ
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お秀はあかくなる代りに少し蒼白あおじろくなった。そうして度外どはずれにんだ調子で、お延の言葉を一刻も早く否定しなければならないという意味に取れる言葉づかいをした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こう言っても、やっぱり丸い眼をして——舞台で見るのとはまるで違う、生彩のない無邪気な眼をむけて、だまって、度外どはずれた時分にちょいと首をかしげて挨拶とおわびとをかねたこっくりをした。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
浴室へ立入って来た客人の方も度外どはずれでないということはありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)