鼠縮緬ねずみちりめん)” の例文
赤坂氷川町ひかわまちなる片岡中将の邸内にくりの花咲く六月半ばのある土曜の午後ひるすぎ、主人子爵片岡中将はネルの単衣ひとえ鼠縮緬ねずみちりめん兵児帯へこおびして、どっかりと書斎の椅子いすりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
鼠縮緬ねずみちりめんの頭巾のうちより、ひややかなる瞳を放ちて「フウ、駿河台の猫股婆ねこまたばば、縄張うちへ踏込んだな。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
紋羽二重もんはぶたえや、鼠縮緬ねずみちりめんの衣物——繻珍しゅちんの丸帯に、博多はかた繻子しゅすとの昼夜帯、——黒縮緬の羽織に、宝石入りの帯止め——長浜へ行った時買ったまま、しごきになっている白縮緬や
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
下には鼠縮緬ねずみちりめんひっかえしを着、上には黒羽二重はぶたえ両面芥子人形ふたつめんけしにんぎょう加賀紋かがもんの羽織を打ちかけ、宗伝唐茶そうでんからちゃの畳帯をしめていた。藤十郎の右に坐っているのは、一座の若女形わかおやま切波千寿きりなみせんじゅであった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鼠縮緬ねずみちりめん裾廻すそまわし二枚袷にまいあわせの下着とおぼしく、薄兼房うすけんぼうよろけじまのお召縮緬めしちりめん胴抜どうぬきは絞つたやうな緋の竜巻、しもに夕日の色めたる、胴裏どううらくれないつめたかえつて、引けば切れさうにふりいて
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)