鳥越とりごえ)” の例文
鳥越とりごえの笹屋宗太郎が、今でもお品さんを付け廻しているという話だが——、あの男なら、利助兄哥を安心させるだろうと思うが——」
鳥越とりごえの兄藤次郎には勘当されている身分。いままたそのお艶とも別れて、しかも事件の起こりの乾坤二刀はいまだに離れたままである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この母子は町人のたねではなかった。お菊の父は西国の浪人鳥越とりごえなにがしという者で、それに連れ添っていた母も武士の娘である。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
能州のうしゅう末森城すえもりじょうは、敵の七尾ななお金沢かなざわをむすぶ街道第一の要害。——津幡つばた鳥越とりごえなどの小城を幾つ踏みつぶすよりも、そこ一つの方が、はるかにまさるぞ。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今茲ことし十三になる前妻の女の子は、お庄がここに来ることになってから、間もなく鳥越とりごえにいる叔母の方へ預けられた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その十日ほどまえから鳥越とりごえのほうに、疱瘡ほうそうがはやると聞いたので、御蔵前おくらまえにある佐野正さのしょうの店へ仕事のために往き来するおせんはそのほうを心配していたし
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
当て落されたのは、間柄まがら助次郎といって、鳥越とりごえに道場を出している男、さまで、劣っていない身が、一瞬でおくれを取ったのを見ると、平馬も、今更、警戒せざるを得ない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
また或る日の事、中根岸の岡野の貸席でこの大会を催している最中、浅草鳥越とりごえ町方面に火事が起って、それが近火だからといって、森猿男氏と片山桃雨氏は俄に帰宅した。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
二戸にのへ郡の浪打なみうち鳥越とりごえが最も沢山作る部落であります。かくて近くの一戸いちのへ、福岡などの荒物屋に数多く運ばれます。南国の竹細工とは全く違うもので、細い篠竹を材料とします。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
小文吾が荒猪を踏み殺したは鳥越とりごえであるが、鳥越は私が物心覚えてからかなり人家の密集した町である。徳川以前、足利の末辺にもせよ、近くに山もないに野猪が飛び出すか知らん。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
当時の生徒で、今名を知られているものは山路愛山やまじあいざんさんである。通称は弥吉やきち、浅草堀田原ほったはら、後には鳥越とりごえに住んだ幕府の天文かた山路氏のえいで、元治げんじ元年に生れた。この年二十三歳であった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
東三筋町に近い、鳥越とりごえ町に渡辺省亭わたなべせいてい画伯が住んでおられて、令嬢は人力車でお茶の水の女学校に通った。その時は髪を桃割ももわれに結って蝦茶の袴は未だ穿いていなかったから私はよくおぼえている。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
種彦は最初一目見るが早いか、しのび入ったの男というはほど遠からぬ鳥越とりごえに立派な店を構えた紙問屋の若旦那で、一時おのれの弟子となった処から柳絮りゅうじょという俳号をも与えたものである事を知っていた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの娘は、鳥越とりごえ平助店へいすけだなにいるおあきという者だ、——叔父、叔母といってるのは全く他人で、これは飴屋あめや丑松うしまつとおとくという、仕事の相棒さ。
栄三郎は、浅草鳥越とりごえに屋敷のある三百俵蔵前取りの御書院番、大久保藤次郎の弟で当年二十八歳、母方の姓をとって早くから諏訪と名乗っている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ところで善ぱ。おめえはこれから鳥越とりごえへ行って、煙草屋の伝介はどうしているか、見て来てくれ」
半七捕物帳:13 弁天娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とりでを設け、前田方の津幡つばた鳥越とりごえに備えてはいたが、そこの小規模をもって、かれを圧するには足りず、守るには、火急の場合、後方との連絡や援護に、余りにも遠く
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浅草鳥越とりごえに剣術指南の道場を開いていることを突止めた。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鳥越とりごえに世帶を持つて、たくはへの小金を融通し、利潤が積つてかなりの身代を作りましたが、今から三年前他界、世帶はそのまゝ總領の宗太郎が繼いで僅か三年の間乍ら、酒や女はもとより
さらに敵が不落とたのむ鳥越とりごえ牙城がじょうを抜いて、能登半島と加賀の境を中断し、一挙に、前田方の勢力を分断するにしかず——と思いついたことから、この大兵をうごかして来たものだった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いらっしゃいまし——おや! これは鳥越とりごえの若様、お珍しい……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
植木屋幸右衛門はもと鳥越とりごえで大きく暮していたが、悪い人間に引っ掛って謀判ぼうはんの罪に落されそうになり、身上しんしょうを投げ出した上娘のお歌まで佐野喜に売って、ようやく遠島はまぬかれましたが
「船はいつの間にか空っぽになって、川岸っぷちにつないでありますよ。だからおかみさんが納まらないんで、——幸い鳥越とりごえのお百の家を知らないからいいが、あの穴が解った日には出刃庖丁騒ぎだ」