霧雨きりあめ)” の例文
霧雨きりあめのなごり冷ややかに顔をかすめし時、一陣の風木立ちを過ぎて夕闇うそぶきし時、この切那せつなわれはこの姉妹はらからの行く末のいかに浅ましきやをあざやかに見たる心地せり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
微暗うすぐらい門番のへや燈火あかりが見えた。真暗い空から毛のような霧雨きりあめが降っていた。書生の体はもう耳門くぐりもんから出た。主翁ていしゅもそのあとから耳門くぐりもんを出たが、ほっとしたような気になって心がのびのびした。
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
俊助は黙って、埃及エジプトの煙を吐き出しながら、窓の外の往来へ眼を落した。まだ霧雨きりあめの降っている往来には、細い銀杏いちょうの並木が僅に芽を伸ばして、かめ甲羅こうらに似た蝙蝠傘こうもりがさが幾つもその下を動いて行く。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そよ吹く風に霧雨きりあめ舞い込みてわがおもてを払えば何となく秋の心地ここちせらる、ただずる青葉のみは季節を欺き得ず、げに夏の初め、この年の春はこの長雨にて永久とこしえきたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)