雛祭ひなまつり)” の例文
三月が来れば雛祭ひなまつりの根原などと、きまりきったことを毎年くりかえしていたのでは、観光団の通弁にはなっても、考える人の役には立たぬだろう。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それは三月の四日、雛祭ひなまつりもいよ/\昨日で濟んで、女の子にはこの上もなくうら淋しいが、はなやかな日でした。
「箱入りの、姫も出しけり雛祭ひなまつり」と云うあの唄や「四季の花」などから始めて、折々気が向くと教えてやったので、今では「黒髪」だの「万歳」だのが上っていたが
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それから岩槻いわつき鴻巣こうのすとは共に雛人形ひなにんぎょうの産地で有名であります。後者は土俗的な人形でも久しく名を得ました。雛祭ひなまつりの風習が続く限りこれらの土地に仕事は絶えないでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
時候は立春、暮春ぼしゅん余寒よかんあたたかうらら長閑のどか日永ひながの類をいふ。人事は初午はつうま二日灸ふつかきゅう涅槃会ねはんえ畑打はたうち雛祭ひなまつり汐干狩しおひがりの類をいふ。天文は春雪、雪解、春月、春雨、霞、陽炎かげろうの類をいふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は雛祭ひなまつりよいに生れた女の子の運命を、あたかも御雛様のそれのごとく可憐かれんに聞いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
納戸なんどへ入って、戸棚から持出した風呂敷包ふろしきづつみが、その錦絵にしきえで、国貞くにさだの画が二百余枚、虫干むしぼしの時、雛祭ひなまつり、秋の長夜ながよのおりおりごとに、馴染なじみ姉様あねさま三千で、下谷したや伊達者だてしゃ深川ふかがわ婀娜者あだもの沢山たんといる。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
川添の家では雛祭ひなまつりの支度をしていた。
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それは三月の四日、雛祭ひなまつりもいよいよ昨日で済んで、女の子にはこの上もなくうら淋しいが、華やかな日でした。
七八ななやここのツばかり、母が存生ぞんしょうの頃の雛祭ひなまつりには、毛氈もうせんを掛けた桃桜ももさくらの壇の前に、小さな蒔絵まきえの膳に並んで、この猪口ちょこほどな塗椀ぬりわんで、一緒にしじみつゆを替えた時は、この娘が、練物ねりもののような顔のほかは
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)