陰慘いんさん)” の例文
新字:陰惨
眼の前の光景の陰慘いんさんさに、畏怖ゐふする前に、私は、私の過去の思ひ出が、激しく湧き出て來るのを抑へなければならなかつた。
店の中は、ムツとするやうな陰慘いんさんさ、この重つ苦しい空氣を一と口呼吸しただけで、人間は妙に罪惡的になるのではあるまいかと思ふやうです。
彼等かれらみな、この曇天どんてんしすくめられたかとおもほどそろつてせいひくかつた。さうしてまたこのまちはづれの陰慘いんさんたる風物ふうぶつおなじやうないろ著物きものてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
陰慘いんさんたる修羅しゆら孤屋こをくくらべると、こゝはかへつて、唐土たうど桃園たうゑんかぜく。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
突然、今迄聞いた事もないやうな、陰慘いんさん合唱コーラスと共に、一隊の男女が、妖魔の行列のやうに廣間へ入つて來ました。
平次は、この陰慘いんさんな空氣の中から逃出すと、八五郎を先に立てて、御切手町の長崎屋に向ひました。
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
四十そこ/\の陰慘いんさんな忍從に叩き上げられたやうな蒼黒い男です。
孫三郎は陰慘いんさんな土藏のなかで續けるのでした。