重々おもおも)” の例文
産という肉体の苦痛を眼前に控えている細君の気息遣いきづかいはただでさえ重々おもおもしかった。健三は黙って気の毒そうなその腹と光沢つやの悪いそのほおとを眺めた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
会議の報告、新君擁立の誓いなど、胸中の万感をまじえて、長々と信長の霊に告げているものか、黙拝拈香ねんこう、いと重々おもおもしく、さらに合掌久しゅうしていた。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
官吏の権威の重々おもおもしかった時の事ですから、配達夫が一葉の端書はがきを持って「何のなにがしとはその方どもの事か——」
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
浪打際なみうちぎわ綿わたをばつかねたような白い波、波頭なみがしらあわを立てて、どうとせては、ざっと、おうように、重々おもおもしゅう、ひるがえると、ひたひたと押寄せるが如くに来る。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「おまえは、わしたことがない。けれど、空想くうそうしたことはあったはずだ。おまえはわしをなんとおもうのだ。」と、おじいさんは、重々おもおもしい口調くちょうでいいました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
いろりの一方の側には、重々おもおもしく、しかし贅沢に装幀した本が、幾段にも棚にならんでいた。
この階下したの大時計六時を湿しめやかに打ち、泥をわだちの音重々おもおもしく聞こえつ、車来たりぬ、つともなく起ち、外套がいとうを肩に掛けて階下したに下り、物をも言わで車上に身を投げたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
イヤな空気が重々おもおもと漂った。だが、京子だけは丸きり平然とその空気を呼吸していた。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ころがってのレールへ移ると、敏捷すばやく菜っ葉服の一人の手へ捕えられ、重々おもおもとこの吊り下った大きな斧の下へ立たされ、ちょいと縁を割られ、くるりとなると、また他の縁をちょいちょいと割られ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
男は、とりつくろったようすで、重々おもおもしくこたえた。
張が重々おもおもしい声で死の予告をした。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
老人は、重々おもおもしく首を振って
キャラコさん:10 馬と老人 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
しきつめたさざいしのうえを、牛車の厚いわだちが、邸内の奥ふかくまで、重々おもおもきしみ巡って来るまに
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
甲野さんは眼尻に笑の波を、あるか、なきかに寄せて重々おもおもしく首肯うなずいた。あとから云う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、彼も兄弟としての馴れなどはどこにも示さず、重々おもおもしく、そのかしらを下げて。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おん曹子ぞうし——」と重々おもおもしく呼びかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)