およ)” の例文
然るに一たび星巌の西より還り来って江湖旧社の跡を尋ね、更に吟社を興すにおよんで玉池の名はふたたび詩人の間に言いつたえられるようになった。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
間の堕落は間その人の死んだも同然、貴方は夫を持つて六年、なあ、水はくつがへつた。盆は破れてしまうたんじや。かう成つた上は最早もはや神の力もおよぶことではない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
後押あとおしを加えたれども、なおいまだおよばざるより、車夫らはますます発憤して、もだゆる折から松並み木の中ほどにて、前面むかいより空車からぐるまき来たる二人の車夫に出会いぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊沢氏の相識中尚此年には百々桜顛とゞあうてんが死し、七世市川団十郎が死んだ。頼氏では三樹三郎醇みきさぶらうじゆんが前年攘夷を策して幕吏のおよぶ所となり、此年江戸に斬せられた。「身臨湯鑊家無信。夢破鯨濤剣有声。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かかるくるし枕頭まくらもとに彼は又驚くべき事実を見出みいだしつつ、ひるがへつて己を顧れば、測らざる累の既におよべる迷惑は、その藁蒲団わらぶとんの内にはりの包れたる心地して、今なほ彼の病むと謂はば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
らじとべしかひなおよばず、いらつて起ちし貫一は唯一掴ひとつかみと躍りかかれば、生憎あやにく満枝が死骸しがいつまづき、一間ばかり投げられたる其処そこの敷居に膝頭ひざがしらを砕けんばかり強く打れて、のめりしままに起きも得ず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)