跋扈ばつこ)” の例文
軍需成金共が跋扈ばつこしてゐて、一人静かに書を読まうとか、傷ついた心身を休めようとか、さういふやうなものは問題ではないのだ。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
忠誠鯁直かうちやく之者は固陋ころうなりとして擯斥ひんせきせられ、平四郎の如き朝廷を誣罔ぶまうする大奸賊登庸とうようせられ、類を以て集り、政体を頽壊たいくわいし、外夷いよ/\跋扈ばつこせり。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
幅の廣い道路がついてゐるが、日に人が一人通るか、二人通るか分らない道であるから、雜草が跋扈ばつこしてゐて僅かに一筋か二筋の細い路になつてゐる。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
その頃の文壇には自然主義がまだ跋扈ばつこしてゐた。詩が輕んぜられてゐた。田舍臭い蕪雜な文章や卑俗な思想が、新文學の名の下に臆面もなく世に現れてゐた。
昔の西片町の人 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
実に北海道にして始めて見るべき種類の者らしい、すなはち何れの未開地にも必ず先づ最も跋扈ばつこする山師やましらしい。
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
されどもすこぶる種々の有益なる材料ざいれうを得来りしは余の大に満足まんぞくとする所なり、動物にては鹿しかくまおほくして山中に跋扈ばつこし、猿、兎亦多し、蜘蛛類、蝨類のめづらしき種類あり
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
はへいたことはふまでもなからう。ねずみがそんなに跋扈ばつこしては、夜寒よさむ破襖やぶれぶすまうしよう。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
徳川幕府末世に跋扈ばつこした多くの戯作の上に顕はれた不真面目な作者の臭味——さういふものから、かれは長い間脱却することが出来なかつたが、『多情多恨』の後半に至つて
尾崎紅葉とその作品 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
といふても、実際眼前に草の跋扈ばつこを見れば、らずには居られぬ。隣の畑が奇麗なのを見れば、此方の畑を草にして草の種を隣に飛ばしても済まぬ。近所の迷惑も思はねばならぬ。
草とり (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
近来社会党がナカ/\跋扈ばつこ致しまして、今回坑夫の同盟なども全く、社会党の煽動せんどうから起つたので御座ります、此分では将来何の事業でも発達上、非常な妨碍をかうむりまするわけで
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
よし、当時は大内氏の全盛時代で、Y町の文化がさきに京都を凌ぐものがあつたにしろ、他の通俗的な工芸美術の跋扈ばつこに圧倒されて、雪舟の墨絵ぐらゐ、それほど重きに置かるわけはない。
故郷に帰りゆくこころ (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
叡山の山僧の跋扈ばつこは、歴代の朝廷も将軍も手を焼き、国政上の大患だつた。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
然れども地底の岩を音なしに流るゝ水こそ地面を膏腴かうゆにする者なり、彼れ数学者が人知らず辛棒しんぼうせし結果は我人民の推理力を養うて第十九世紀科学跋扈ばつこの潮流に合することをくせしめたりき。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
市内に於けるいはゞ私娼、乃至みづてん芸者の跋扈ばつこは恐ろしいもので、筆者の手許には、相当の材料も集つて居るけれど、これはスケツチに用のない事、沈黙を守つて、蓋をあけないことにしよう。
名古屋スケッチ (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
同時に社会主義者の四海同胞観しかいどうはうくわんを、あらゆる特権を排斥する、愚な、とんまな群の道徳としたのも、無政府主義者の跋扈ばつこを、欧羅巴ヨオロツパの街に犬が吠えてゐると罵つたのも面白い。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
然るに群馬栃木の中に、この新奇なる古河市兵衛の輩が跋扈ばつこして、新たに居留地をこしらへ、法律あれども法律を行ふことが出来ない。人民如何に困憊こんぱいに陥るとも、農商務大臣の目には少しも見えない。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)