藍碧らんぺき)” の例文
その本流と付知つけち川との合流点を右折して、その支流一名みどり川を遡航そこうするふなべりに、早くも照り映ったのはじつにその深潭しんたん藍碧らんぺきであった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それゆえ、わたしは三度藍碧らんぺきの服をつけた彼女を明るい午後の、うすぼんやりした光で見いだしたとき、なぜか一種の悲哀をさえ感じた。
ヒッポドロム (新字新仮名) / 室生犀星(著)
况んや秋の日の光は美しく四山の白雲に掩映えんえいして、空の藍碧らんぺき透徹すきとほるばかりに黒く嶮しき山嶺を包み、うちに無限の秋の姿を藏したるをや。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
この色が、紫に、緑に、紺青こんじょうに、藍碧らんぺきに波を射て、太平洋へ月夜のにじを敷いたのであろうも計られません
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは延宝七年の春の二時やつすぎであった。前は一望さえぎる物もない藍碧らんぺきの海で、其の海の彼方かなたから寄せて来る波は、どんと大きな音をして堰堤に衝突とともに、雪のような飛沫をあげていた。
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その日一天うららかに空の色も水の色も青く澄みて、軟風おもむろに小波ささなみわたる淵の上には、塵一葉ちりひとはうかべるあらで、白き鳥の翼広きがゆたかに藍碧らんぺきなる水面を横ぎりて舞えり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その日一天いつてんうららかに空の色も水の色も青くみて、軟風なんぷうおもむろに小波ささなみわたる淵の上には、ちり一葉ひとはの浮べるあらで、白き鳥のつばさ広きがゆたかに藍碧らんぺきなる水面を横ぎりて舞へり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)