蔭乍かげなが)” の例文
『奥様、誠に御気の毒なことで御座ます。猪子先生の御名前はかねて承知いたして居りまして、蔭乍かげながら御慕ひ申して居たのですが——』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
根岸に籠つた奧方は蔭乍かげながら屋敷に殘した伜謙之進の上を案じ、女の智惠に及ぶ限りの工夫をこらしてそれを守護しました。
さる二日書状しよじやう到來たうらいいたし委細ゐさい拜見はいけん致し候偖々さて/\其方にても段々不如意ふによいとのおもぶ蔭乍かげなが案事あんじ申候みぎに付御申こし娘儀むすめぎ出府しゆつぷ致されべく候吉原町にも病家も有これあり候間よろしき先を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
蔭乍かげながらお味方の一人より
平馬と鶯 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私はお上の目を忍んで、三年前からこつそり江戸へもぐり込み、蔭乍かげながら伜二代目勘兵衞の仕事を助けてやりました。
君の性分としては左様さうあるべきだとも思つて居る。君の慕つて居る人に就いても、蔭乍かげながら僕は同情を寄せて居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「三州藤川在岩井村十兵衞殿返事江戸麹町三丁目村井長庵」右の通りの上書うはがきにて中の文言もんごんは「去二日出の書状到着たうちやく委細拜見致し候扨々其方にても屡々不如意ふによいとの趣き蔭乍かげなが案事あんじ申候右に付御申こしの娘出府しゆつぷ致されべく候吉原町にも病家びやうかも有之候間宜しき處を ...
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
錢形の平次親分がたつた一人、御鑑定おめがねかなつて、凾嶺の關所を越すまで、蔭乍かげながら守護して來るといふ話は、海道筋を繩張りにしてゐる、私達の耳に入らずに居る筈はない——
「あれは蔭乍かげながらお紋を見張つて居たかつたのだな、そのお紋が馬鹿殿に手籠にされた」
堅氣かたぎの商人に育てさせ、蔭乍かげながらその生長を見張つて居りましたが、父彌十郎が十年前に刑死して、姉のお幾も若過ぎて妹を救ふ手が及ばず、お袖は見す/\藝子に賣られましたが