苦艾にがよもぎ)” の例文
わたし乳首ちゝくび苦艾にがよもぎまぶって鳩小舍はとごや壁際かべぎは日向ひなたぼっこりをして……殿樣とのさま貴下こなたはマンチュアにござらしゃりました……いや、まだ/\きゃしませぬ。
以前ナターリヤ・ガヴリーロヴナが私の胸によび起こした燃えるような苛立たしい愛情、あるときは甘くあるときは苦艾にがよもぎのように苦い愛情は、今はもうなかった。
(新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
並行して血をにじませた幾条かの打ち創のあるものはひそやかに血潮を吹いてゐた。定は静かにこうべを垂れると次々にその創痕に唇を当てて行つた。そのあじわひは塩辛く彼の胸には苦艾にがよもぎに似た悔恨がうずいた。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
それはさうと、只今たゞいままうしましたとほり、わたしちゝ尖所さき苦艾にがよもぎめさっしゃると、にがいので、阿呆あはうどのがむづかって、ちゝをなァにくがって! すると鳩小舍はとごやが、がた/\/\。
夏になると彼女は例の段々に坐っているが、その胸のうちは相変らずがらんとして、味気なく、例の苦艾にがよもぎの後味がしていたし、冬は冬で彼女は窓ぎわに坐って、じっと雪を見つめている。
可愛い女 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)