“膃肭臍（おっとせい）” の例文
女は両眼をクワッと開いて、彼の方に、動物園の膃肭臍（おっとせい）のように身悶えした。眉を青々と剃りおとした女の眼は、提灯のように大きかった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) ／ 海野十三(著)
しかも、全く千鶴子の云ったように一度見たら忘れられない下向きの、温良極りない大きな膃肭臍（おっとせい）髭がついている。——
築地河岸 (新字新仮名) ／ 宮本百合子(著)
まだ海豹島（かいひょうとう）へ行って膃肭臍（おっとせい）は打っていないようであるが、北海道のどこかで鮭（さけ）を漁（と）って儲（もう）けた事はたしかであるらしい。
彼岸過迄 (新字新仮名) ／ 夏目漱石(著)
湿深（しつぶか）そうな膏（あぶら）ぎったちょんぼり目を膃肭臍（おっとせい）、毛並の色で赤熊とも人呼んで、いわゆるお孝の兄さんである。
日本橋 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)
そこにだけしゃ切り立ったような黄褐色の毛が簇（むらが）り、全身はあまりにも短い滑らかな密毛に被われているために、さながら水に濡れた海豹（あざらし）か膃肭臍（おっとせい）のようにヌラヌラした感があり
陰獣トリステサ (新字新仮名) ／ 橘外男(著)
水に濡れて、膃肭臍（おっとせい）のように光っていた。
踊る地平線：06　ノウトルダムの妖怪 (新字新仮名) ／ 谷譲次(著)
また始めに、お孝が俺のものになった時は、知ったほどの誰も彼も、不断云う、赤熊だことの、膃肭臍（おっとせい）だことの、渾名（あだな）を止（や）めて、浦島だ、浦島だ、言うたもんで。
日本橋 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)
もし木戸から迂回（うかい）して敵地を突こうとすれば、足音を聞きつけて、ぽかりぽかりと捉（つら）まる前に向う側へ下りてしまう。膃肭臍（おっとせい）がひなたぼっこをしているところへ密猟船が向ったような者だ。
吾輩は猫である (新字新仮名) ／ 夏目漱石(著)
大土間の内側を丸太で劃（しき）った——（朝市がそこで立つ）——その劃（しきり）の外側を廻って、右の権ちゃん……めくら縞（じま）の筒袖（つつッぽ）を懐手（ふところで）で突張（つっぱ）って、狸より膃肭臍（おっとせい）に似て、ニタニタと顕（あら）われた。
古狢 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)
やがて一抱（ひとかかえ）もあろう……頭と尾ごと、丸漬（まるづけ）にした膃肭臍（おっとせい）を三頭。
露肆 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)
さてここに、膃肭臍（おっとせい）を鬻（ひさ）ぐ一漢子（いっかんし）！
露肆 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)
「膃肭臍（おっとせい）。」
日本橋 (新字新仮名) ／ 泉鏡花(著)