脚夫きゃくふ)” の例文
だが、これは私の裏の郵便脚夫きゃくふの家に限ったことではない、その隣にも、その裏にも、似た様な子福者がいくらもある。
毒草 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けたたましく郵便脚夫きゃくふ走込はしりこむのも、からすが鳴くのも、皆何となく土地の末路を示す、滅亡のちょうであるらしい。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
郵便局の前を通るにつけ、郵便箱を見るにつけ、脚夫きゃくふに行きあうにつけ、僕はあなたを連想しない事はありません。自分の机の上に来信を見いだした時はなおさらの事です。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
門番にしたいと言ってもらいたい、そうすると、私の苦痛もなくなる、私はもと宣城せんじょうの生れで、脚夫きゃくふをしていた関係で、死んでからも死人の籍を運送することを言いつかっている
賭博の負債 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
半歳はんとしちかくたって、或日の朝重吉はいつものように寐坊ねぼうな女を二階へ置いたまま、事務所への出がけ、独り上框あがりがまちで靴をはいていると、その鼻先へ郵便脚夫きゃくふが雑誌のような印刷物二
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
熊谷の小島は一高の入学試験を受けに東京に出かけたが、時々絵葉書で状況を報じた。英語がむずかしかったことなどをも知らせて来た。郵便脚夫きゃくふは毎日雨にぬれて山門から本堂にやって来る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
真中頃まんなかごろで、向岸から駆けて来た郵便脚夫きゃくふ行合ゆきあって、遣違やりちがいに一緒になったが、分れて橋の両端りょうはしへ、脚夫はつかつかと間近に来て、与吉はの、倒れながらに半ば黄ばんだ銀杏いちょうの影に小さくなった。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)