秋毫しゅうごう)” の例文
老婦人は見ざるがごとく、秋毫しゅうごうも騒げる色無し。かれはあえて害を加えんとはせで、燈火をそこに差置きたるまま、身をひるがえして戸外に去りぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
然るに彼等は秋毫しゅうごうも怪しまず、何が故に女子に罪多くして三界に家無きかに対しては疑問を提起しておらぬ。
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
ルクレチウスは素手でともかくも後代の物理的科学の基礎を置いたことは事実であるのに、頭脳のない書物と器械だけでは科学は秋毫しゅうごうも進められないのである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
秋毫しゅうごうも国に益すことなくして、わざわいの全国に波及するに至りては主客ともに免るることを得ず。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と、すぐ全軍を青州から引き揚げにかからせたが、その途すがらも、秋毫しゅうごうおかすことない徳風を慕って、郷村きょうそんの老幼男女は、みな道にならび、香をき、花を投げて、歓呼した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秋毫しゅうごうも夫万吉郎に、かき乱れたる自分の心のうちを気どられるような愚はしなかった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
殊に其形はコロップの裏の創にシックリ合えり、生田の罪は最早もは秋毫しゅうごうの疑い無し。
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
背倫はいりんの行為とし、唾棄だきすべき事として秋毫しゅうごうゆるすなき従来の道徳を、無理であり、苛酷かこくであり、自然にそむくものと感じ、本来男女の関係は全く自由なものであるという原始的事実に論拠して
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
満洲の日は例によって秋毫しゅうごうの先をあざやかに照らすほどに思い切ったものである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
壮佼わかいしゅ、気をつけろ、わしがぼけてる、眼は秋毫しゅうごうさきもはっきり見える、耳は千里のそとを聞くことができるのだ、おまえなんざ無学だから、こんなことを云っても判らないだろうが、私はこう見えても
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
一家の盛衰に婦人の力を及ぼす其勢力の洪大なるは、之を男子に比較して秋毫しゅうごうの差なし。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その自由意志が秋毫しゅうごうも宇宙線に影響されないとは保証できないような気がする。
蒸発皿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
取留めのない夢のおもいで、拓はこの時少年がお雪に向ってなす処は、一つびとつ皆思うことあって、したかのごとく感じられて、快活かくのごとき者が、恋には恐るべき神秘を守って、今までに秋毫しゅうごう
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)