神泉苑しんせんえん)” の例文
そして帰路、神泉苑しんせんえんの御所に大塔ノ宮をおたずねして、そこでは御酒をたまわり、すべてこの一日は、彼の最良の日らしくみえた。
元より中には『あの建札も誰かの悪戯いたずらであろう。』など申すものもございましたが、折から京では神泉苑しんせんえんの竜が天上致したなどと申す評判もございましたので
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小野小町は神泉苑しんせんえんで雨を祈った。自分に誠の心があらば神も仏もかならず納受のうじゅさせらるるに相違ないと彼女は言った。なるほどそんな道理もあろうと忠通も思った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
有験うげんの高僧貴僧百人、神泉苑しんせんえんの池にて、仁王経にんおうきょうこうたてまつらば、八大竜王はちだいりゅうおう慈現じげん納受のうじゅたれたまふべし、と申しければ、百人の高僧貴僧をしょうじ、仁王経を講ぜられしかども、其験そのしるしもなかりけり。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『そう落胆し給うな。秋にはまた、神泉苑しんせんえんか、仁和寺にんなじか、どこかで、必ず催されよう。どこへ出しても、勝てる名馬。何も、功をあせることはない』
ある花曇りの日の昼中ひるなかだったかと存じますが、何か用足しに出ました帰りに、神泉苑しんせんえんの外を通りかかりますと、あすこの築土ついじを前にして、揉烏帽子もみえぼしやら、立烏帽子たてえぼしやら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
思いつつも、尼の母子おやこは、洛内壬生みぶ神泉苑しんせんえんのほとりに水入らずな世帯をもち、覚一は以前の琵琶の師の許へ。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また、さきのおととし、鳥羽とばいんと、待賢門院たいけんもんいんさまも、お臨みで、神泉苑しんせんえんの競べ馬に、下毛野しもつけの兼近が、見事な勝をとったのも、たしか、四白の鹿毛かげであったわ
神泉苑しんせんえんの御所は、赤松の幹のほの赤い縞目しまめの奥にすみいろをいていた。