破天荒はてんこう)” の例文
この人としてはこういう形をすることもありそうなことだけれど、その当時にあっては、破天荒はてんこうなハイカラ姿でありました。
夫が相手ではとても考えつかないような破天荒はてんこうな姿勢、奇抜な位置に体を持って行って、アクロバットのような真似まねもした。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もしの怪計画が不幸にして曝露ばくろするようなことがあればの計画の破天荒はてんこうな重大性からみて、日本帝国はただちに立って宣戦布告をするだろうし
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
木部の記者としての評判は破天荒はてんこうといってもよかった。いやしくも文学を解するものは木部を知らないものはなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これ実に破天荒はてんこうの卓識といわざるを得ず。しかれども彼の卓識も、桃太郎鬼が島征伐せいばつ昔噺むかしばなしの如く、何人なんぴと真面目まじめにこれを聞くものなきぞ遺憾なる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
けれども長吉には誰にもとがめられずに恋人の住むうちの前を通ったというそれだけの事が、ほとんど破天荒はてんこうの冒険をあえてしたような満足を感じさせたので
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
朝飯もソコソコにくるまを飛ばして紹介者の淡嶋寒月を訪い、近来破天荒はてんこうの大傑作であると口を極めて激賞して、この恐ろしい作者は如何いかなる人物かと訊いて
露伴の出世咄 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
造物主である以上は評家の予期するものばかりはこしらえぬ。突然として破天荒はてんこうの作物を天降あまくだらせて評家の脳を奪う事がある。中学の課目は文部省できめてある。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これまでの花前にして、子どもをだいてみるなぞは、どうしても破天荒はてんこうなできごとといわねばならぬ。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
万葉の歌は材料極めて少く簡単を以てまさる者、実朝一方にはこの万葉を擬し、一方にはかくの如く破天荒はてんこうの歌を為す、その力量実に測るべからざる者有之候。また晴を祈る歌に
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それらも決してこの歴史を離れて破天荒はてんこうなる新しい仕事を成し得るものとは考えられない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
壯烈そうれつなる剛腸ごうちようしばし破天荒はてんこう暴圖ぼうとくわだて、シベリアの霜雪そうせつをして自然しぜん威嚴いげんうしなはしむ。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
ましてや「恋愛至上主義」など、まあなんという破天荒はてんこう、なんというグロテスク。「恋愛は神聖なり」なんて飛んでも無い事を言い出して居直ろうとして、まあ、なんという図々ずうずうしさ。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
池上は、ほろ酔いの下地でもあるのか、わたくしのこの破天荒はてんこうな仕打ちには何の疑いをも挟まず、少しあきれ顔ながら、とろりとした様子を見せ、抓ねられた痕とわたくしの顔とを見較べて
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あゝ、我が盃は満ちあふる。当学園創立以来、高等学部に斯く多数の青年を迎えることは破天荒はてんこうでございます。但しその中四名のものはこの席に列して居りません。約半数が油断をしています。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
将軍家は、破天荒はてんこうな例外として、藤吉郎にえつをゆるした。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
系統格法は論外に置いて、物があらば必ず突き留め得るものと信じて疑わないところに、この男の破天荒はてんこうな勇気がきざして来るのであります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「伺いますと、正に破天荒はてんこう。もう今までに十四、五人は切ったげにござりまする」
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
不休の活動をいのちとしているような倉地ではあったけれども、この家に移って来てから、家を明けるような事は一度もなかった。それは倉地自身が告白するように破天荒はてんこうな事だったらしい。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
『万葉』の歌は材料極めて少く簡単をもって勝るもの、実朝さねとも一方にはこの『万葉』を擬し、一方にはかくのごとく破天荒はてんこうの歌をなす、その力量実に測るべからざるもの有之これあり候。また晴を祈る歌に
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
人は失恋の結果だなどと騒ぐが、近眼者のるところは実に憐れなほど浅薄なものだ。それはとにかく、未来記の続きを話すとこうさ。その時一人の哲学者が天降あまくだって破天荒はてんこうの真理を唱道する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ああ水が生きてる! この破天荒はてんこうの驚異、生きてるという一語は、われわれには容易に吐くことができません。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
真にこれ破天荒はてんこういいつべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
それこそ破天荒はてんこうの怪事——仮りにその謙遜な門弟の筆になり、後人の忠実な模写であるとしたところが、白雲の胸を刺して煩悶はんもん懊悩おうのうせしむるには充分でしょう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)