石鹸しゃぼん)” の例文
御作さんは、すぐ台所の方へ取って返して、楊枝ようじ歯磨はみがき石鹸しゃぼん手拭てぬぐいまとめにして、さあ、早く行っていらっしゃい、と旦那に渡した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「糸ちゃん、望みが叶うと、よ、もやいの石鹸しゃぼんなんか使わせやしない。お京さんの肌の香がぷんとする、女持の小函こばこをわざと持たせてあげるよ。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
首のもげた筆の軸は子供の石鹸しゃぼん玉吹きになるし、菜切庖丁の使い減らしたのは下駄の歯削りになるし、ズボンの古いのは、切って傘袋になるし——。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私はオデッサの大学を出ると直ぐ第三国際の宣伝員として黒海に沿うすべての都会の裏街で売春婦たちと一しょに人参にんじんと洗濯石鹸しゃぼんを食べて生活しました。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
女「じゃアふみや這入っておいで、其処に石鹸しゃぼんがあるから持っておいで、それは私の使いかけで入らぬから」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
同宿の悪太郎輩あくたろうばらも心附かなんだが、秋元の女房は近来貞之進の帰宿かえりが遅く、預りの金をことごとく請戻したことから、羽織帯小袖の注文石鹸しゃぼん香水の吟味が内々行われることを考え合せ
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
海軍の将卒が折々やると云う驟雨浴しゅううよく「総員入浴用意!」の一令で、手早く制服ふくをぬぎすて、石鹸しゃぼんとタオルを両手につかんで、真黒の健児共がずらり甲板に列んだ処は、面白い見ものであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
気がつかずにいたが、毎度風呂の中で出くわす男で、石鹸しゃぼんを女湯の方から貰って使うのがあって、僕はいつも厭な、にやけた奴だと思っていた。それが一度向うからあまり女らしくもない手が出て
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼は石鹸しゃぼんの泡の溶けるがごとくに、欄干から消え失せてしまった。
石鹸しゃぼんなんぞを、つけて、るなあ、腕がなまなんだが、旦那のは、髭が髭だから仕方があるめえ」と云いながら親方は裸石鹸を、裸のまま棚の上へほうり出すと
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが、いきなり自暴やけにそこここ洗い出した。石鹸しゃぼんの泡が盛大に飛散する——と思っていると、ざぶっとつかってたちまち湯船を出た。からすの行水みたいに早いおぶうである。
「おい、もう少し、石鹸しゃぼんけてくれないか、痛くって、いけない」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おい、もう一遍石鹸しゃぼんをつけてくれないか。また痛くなって来た」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)