矗々すくすく)” の例文
大方の冬木立は赤裸あかはだかになった今日此頃このごろでも、もみの林のみは常磐ときわの緑を誇って、一丈に余る高い梢は灰色の空をしのいで矗々すくすくそびえていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこで小児こどもは、鈴見すずみの橋にたたずんで、前方むこうを見ると、正面の中空なかぞらへ、仏のてのひらを開いたように、五本の指の並んだ形、矗々すくすく立ったのが戸室とむろ石山いしやま
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妖女が馬腹をくぐる時の文句に「周囲の山々は矗々すくすくくちばしを揃え、頭をもたげて、この月下の光景を、おぼろ朧ろとのぞき込んだ」
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ほばしら、電柱、五月鯉さつきのこいさおなどになるのが、奇麗に下枝をろされ、殆んど本末の太さの差もなく、矗々すくすくと天を刺して居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
蒼白くひろがった月光の中に、尖塔を持ち円家根まるやねを持ち、矗々すくすくと聳えている南蛮寺の姿は、異国的であって神々しい。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何の風情もない、饅頭笠まんぢうがさを伏せた様な芝山で、逶迤うねくねしたみちいただきに尽きると、太い杉の樹が矗々すくすくと、八九本立つてゐて、二間四方の荒れ果てた愛宕神社のほこら
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
小一町登ると、左手に蒼空が、果てし無く拡がって、杉の老幹が矗々すくすくと聳えていた。そこは狭いが、平地があって、谷間へ突出した岩が、うずくまっていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
水底みなぞこのようにつめたく青い月の夜で、庭の樹々は心あるものが強いて沈黙を守っているような静けさで、矗々すくすくと空に裸の枝を延ばしていた。その静けさは雨戸をしめ切った室の内までも沁みて来た。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
蝦夷松えぞまつ椴松とどまつ、昔此辺の帝王ていおうであったろうと思わるゝ大木たおれて朽ち、朽ちた其木のかばねから実生みしょう若木わかぎ矗々すくすくと伸びて、若木其ものがけい一尺にあまるのがある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼はすっかり驚きもしたが、其拍子に精神こころが引締りもした。で彼は素早く眼を配って四辺あたりの様子を窺った。其処は何うやら裏庭らしく桐の木が矗々すくすくと立っている。
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だがどうしてその女が、こんな寂しい森の奥に、一人でんでいるのだろう? まったく寂しい森である。巨木が矗々すくすくと聳えている。枝葉がこんもりと繁っている。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう思われるような巨木が矗々すくすくと、主屋の周囲に聳えていて、月の光を全く遮り、四辺あたりを真の闇にしてい、ほんの僅かの光の縞を、木間からこぼしているばかりであった。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)