目醒めざ)” の例文
そこのすきへ、保元・平治の乱で自己の力量に目醒めざめた平家が、西国の富裕な地盤にものをいわせて、無理おしに京都へ押し出てくる。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
急に本能の目醒めざめた思ひで、また、強くおせいの腰を取つたが、おせいは、富岡の手をふりほどくやうにして、狭い石段を降りて行つた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
その翌朝よくてう日出雄少年ひでをせうねんわたくしとが目醒めざめたのは八すぎ櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさは、武村兵曹たけむらへいそうをはじめ一隊いつたい水兵すいへい引卒ひきつれて、何處いづこへか出去いでさつたあとであつた。
馬は目醒めざましい上手である。その外青年貴族のするような事には、何にも熟錬している。馬の体の事は、毛櫛けくしが知っているより好く知っている。
しかし犯人が若い女の方だとすると、煙草は可也かなり重要な証拠になると思う。金が目醒めざめている間には、あんなに煙草を撒き散すことは出来ない。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
独断の「甘い」夢が破られて批判的知見に富んだ「いき」が目醒めざめることは、「いき」の内包的構造のところで述べた。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
覚有情とはさとれる人という意味で、人生に目醒めざめた人のことです。ただし自分ひとりが目醒めているのではなく、他人をも目醒めさせんとする人です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
れたふんどしをぶら下げて、暑い夕日の中を帰ってくる時の気色きしょくの悪さは、実に厭世えんせいの感を少年の心に目醒めざめさせた。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
そして、柱に掛った寒暖計を見て、「三十五度か、寒いわけだ」と思いながら部屋を出た。どの部屋からも安らかな寝息がれていて一人も目醒めざめていなかった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
いわゆる盲目蛇で、政治家が文明の活動を一般国民に知らせずにおいた、即ち目醒めざめかかった者に麻酔剤を飲ませておいた状態——これが我が日本の鎖国状態であった。
その風音にあやされて、私は、つひに、睡眠ねむりに落ちた。大して寢ないうちに、急な停車が、私を目醒めざめさした。馬車のドアが開いた。召使ひふうの者が、ドアのところに立つてゐた。
別に昔と比べて目醒めざましい発展をしているとも思われない、下車すると大宮行きのバスがある、それへ乗り込んで七八丁、喜多院前で下車する、境内はだだっ広くしまりがない
武州喜多院 (新字新仮名) / 中里介山(著)
(今日の民謡と称するものは少くとも大部分は詩形上都々逸どどいつと変りはない。)この眠つてゐる王女を見出すだけでも既に興味の多い仕事である。まして王女を目醒めざませることをや。
三十分ほどもったろうか。突然、冷たい感触が私を目醒めざめさせる。風が出たのか? 起上って窓から外を見ると、近くのパンの木の葉という葉が残らず白い裏を見せて翻っている。
が、その頃から既に、本能的に夢を見ようとする少年と、反対にそれから目醒めざめようとする少女とが、その村を舞台にして、互に見えつ隠れつしながら真剣に鬼ごっこをしていたのだった。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
魯文は、『仮名読新聞』によって目醒めざましい活躍をした人で、また猫々道人みょうみょうどうじんとも言ったりした。芸妓を猫といい出したのも、魯文がはじめである。魯文は後に『仮名読新聞』というものを創設した。
明治十年前後 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
『何。うき様が、お目醒めざめとか。はて、せわしない』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かかる中にわが魂は目醒めざめて
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
わたくし何氣なにげなく倚子ゐすよりはなれて、檣樓しやうらうに、露砲塔ろほうたふに、戰鬪樓せんとうらうに、士官しくわん水兵すいへい活動はたらき目醒めざましき甲板かんぱんながめたが、たちま電氣でんきたれしごと躍上をどりあがつたよ。
なにしろ、帝都の市民は、今日になって、防空問題に、目醒めざめたことだろうが、こんなになっては、もう既に遅い。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その力は、目醒めざめ、燃えた。そしてまづ、今まではあをざめたのないものとしか見えなかつた、彼女の頬のあざやかな紅となつて輝き、次には彼女の眼のうるほひにみちた艷となつて光つた。
かつて、釈迦は「因縁」の真理に目醒めざめることによって、覚れる仏陀ほとけになったのです。したがって、私どももまた、この因縁の真理をほんとうに知ることによって、何人も仏になりうるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「お蘭さん、お目醒めざめでないかい、おらがお蘭さんはおらんのかい」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いそ其方そなたると少年せうねんは、いまこゑおどろ目醒めざめ、むつときて、半身はんしん端艇たんていそとしたが、たちまおどろよろこびこゑ
不図ふと、その白昼夢はくちゅうむから、パッタリ目醒めざめた。オヤオヤ睡ったようだと、気がついたとき、庭の方の硝子窓ガラスまどが、コツコツと叩かれるので、其の方へ顔を向けた。
俘囚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
五日延期してはどうかと、断水坊平生のしゃあツクにも似ず真面目くさって忠告を始めたが、吾輩はナアニというので、その夜はグッスリと寝込み、翌朝目醒めざめたのは七時前後、風は止んだが
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
目醒めざめた警備の人々は、相手の真黒に汚れた顔を見てふきだしたい位でした。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)