犬死いぬじに)” の例文
むかしより長い戦争には戦場で討死する人よりも病気で死ぬ人が多いとしてあります。病気で死ぬのは犬死いぬじにで何の役に立ちません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
それは犬死いぬじににきまっていますが見す見す部下が弱ってゆくのを眺めていることは、どんなにか苦しいことでしょう。戦いの運はもうきょうのうちの大凶だいきょうです。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
甲斐かいへかえるも都へかえるもせんなきこと、追腹おいばらきって相果てようかと思いましたが、それも犬死いぬじに、ことによるべなき残り二、三十人の郎党ろうどうどもがふびんゆえ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝が主謀しゅぼうと見ゆる、血気に任せてらぬ腕立うでだて、心なくもこの島田に殺生せっしょうさせた、ここに枕を並べた者共もみな一廉ひとかどの剣術じゃ、むざむざ犬死いぬじにさせて何と言訳いいわけが立つ、愚者おろかもの
幾百万戦死者を犬死いぬじにさせてはならない。この世は平和でありよろこびの天地でなければならないと思うのです。人間にどうにもならない運命があるように、国にも運命があると思うのです。
私の思い出 (新字新仮名) / 柳原白蓮(著)
その許しもないのに死んでは、それは犬死いぬじにである。武士は名聞みょうもんが大切だから、犬死はしない。敵陣に飛び込んで討死うちじにをするのは立派ではあるが、軍令にそむいて抜駈ぬけがけをして死んでは功にはならない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「はははッ……『荒鷲』はむざむざと犬死いぬじにはせぬぞ。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「お待ちください。そして、二官殿の死を犬死いぬじにとなさいますなよ。ヨハンも、あなたが夜光の短刀を探したという知らせを聞くまで、どんな事しても、骨になっても、きっとここに生きております」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)