湿しと)” の例文
旧字:
時雨しぐれらしく照ったり降ったりしていた雨のあしも、やがてじめじめと降り続いて、煮しめたようなきたない部屋へやの中は、ことさら湿しとりが強く来るように思えた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
木の蔭に乗物を立てかけておいて、お島は疲れた体を、草のうえに休めるために跪坐しゃがんだ。裳裾もすそ靴足袋くつたびにはしとしと水分が湿しとって、草間くさあいから虫がいていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
母屋おもやの畳は湿しとる程吹き込んだ。家内は奥の奥まで冷たい水気がほしいまゝにかけわる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
温かに劇薬のながれ湿しとる音楽……
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
じめじめと降り続く秋雨に湿しとった夜風が細々とかよって来て、湿気でたるんだ障子紙をそっとあおって通った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お作は番茶をれて、それから湿しとった塩煎餅しおせんべいを猫板の上へ出した。新吉は何やら考え込みながら、無意識にボリボリ食い始めた。お作も弱そうな歯で、ポツポツかじっていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)