混雑ごたごた)” の例文
旧字:混雜
階下したの部屋は一時ひととき混雑ごたごたした。親類の娘達の中でも、お愛の優美な服装がことに目立った。お俊は自分の筆で画いた秋草模様の帯をしめていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
変窟へんくつな僕からいうと、そう混雑ごたごたした所へ二人で押しかけるのは、世話にならないにしても気の毒でいやだった。けれども母は行きたいような顔をした。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蒟蒻こんにゃく蒲鉾かまぼこ、八ツがしら、おでん屋のなべの中、混雑ごたごたと込合って、食物店たべものみせは、お馴染なじみのぶっ切飴きりあめ、今川焼、江戸前取り立ての魚焼うおやき、と名告なのりを上げると、目の下八寸の鯛焼たいやきと銘を打つ。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬鹿げて大きな複雑した光景とか、わるく塗られたペンキのやうなあくどい色彩とか、乾き切つた抽象的な悲劇とか、さうしたものが混雑ごたごたとそこに展開されてあるばかりである。
通俗小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
其中そのうちに親類の人達が集まって来る、お寺から坊さんが来る、其晩はお通夜つやで、翌日は葬式と、何だか家内かない混雑ごたごたするのに、る物聞く事皆珍らしいので、私は其に紛れて何とも思わなかったが
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
引越の混雑ごたごたの後で、三番目のお繁——まだ誕生を済ましたばかりのが亡くなった。丁度それから一年過ぎた。た二番目のお菊が亡くなった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかし腹の中ではただでさえこう混雑ごたごたしているところへ、もし田口が吾一でも連れて来たら、それこそ自分の寝る場所さえ無くなるだろうと心配したのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ええ、混雑ごたごたいたしまして、どうも、その実に行届ゆきとどきません、ひらに御勘弁下さいまして。」
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夕方は何だか混雑ごたごたして落着かぬうちにも、一寸ちょっとい事が一つある。ランプ掃除は下女の役だが、夕方之に火をけて座敷々々へ配るのは私の役だ。其時だけは私は公然雪江さんの部屋へ入る権利がある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
正太はたもとを探った。三吉は甥がくれた巻煙草に火をけて、それをウマそうにふかしてみた。葬式の準備やら、弔辞くやみを言いに来る人が有るやらで、家の内は混雑ごたごたした。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
田口や松本を始め、ともに立つものはみんなむこうの方で混雑ごたごたしていたので、はたには誰も見えなかった。母は突然いきなり自分の坊主頭へ手をせて、泣きらした眼を自分の上にえた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
帰りを急ぐ混雑ごたごたした間際まぎわに、そんな機会の来るはずもないと、始めからあきらめている癖に、そうした好奇の心が、会いたくないという回避の念のかげから、ちょいちょい首を出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前も聞いて来たろうが、百姓一揆はその混雑ごたごたの中だぜ。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
急に家の内は人で混雑ごたごたした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)