母胎ぼたい)” の例文
それは、無心な風が、花粉をいて、土のある所には必ず次の花となる母胎ぼたいを作ってゆくように、善信の身に、自然に備わっている力のようにみえる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昨夜、台所の竈台へっついだいの下の空籠からかごの中で、犬のピンがうめいたりさけんだりして居たが、到頭四疋子を生んだ。茶色ちゃいろが二疋、くろが二疋、あの小さな母胎ぼたいからよく四疋も生れたものだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、一人ひとり幼児おさなご母胎ぼたい宿やどったときに、同一系統どういつけいとう竜神りゅうじんがその幼児おさなご守護霊しゅごれいまた司配霊しはいれいとしてはたらくことはけっしてめずらしいことでもない。それが竜神りゅうじんとして大切たいせつ修業しゅぎょうひとつでもあるのじゃ……。
ロミオ (廟の前に進みて)おのれ母胎ぼたいめ、またとない珍羞ちんしゅうむさぼひをったにッくめ、おのれくさったあぎとをば、まッのやうに押開おしひらいて、(と廟の扉をぢあけながら)おのれへの面當つらあて
近頃しらべてみたところ、わたくしの父母は未詳みしょうである。つまり、拾われた子であることがわかった。だから、人間の母胎ぼたいから生れてきたかどうか、その辺のことはすこぶる疑わしいこととなった。
第四次元の男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
玉日は、乳をすう幼児おさなごの顔をじっと見ていた。自分が一つの母胎ぼたいであると共に、良人が、億万の民衆に愛と安心の乳をそそぐ偉大な母胎ぼたいでなければならないことがよく分った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生みの母胎ぼたいはその任務だけを果すと、やがて老いに帰して安んじなければならない——信長というものが、いつまで郷土に膠着こうちゃくしていないことは、郷土自体にはさびれでも、大きな意味で
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)