権助ごんすけ)” の例文
月並な西洋館もなく、模範勝手もなく、車屋の神さんも、権助ごんすけも、飯焚も、御嬢さまも、仲働なかばたらきも、鼻子夫人も、夫人の旦那様もない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔、大阪の町へ奉公ほうこうに来た男がありました。名は何と云ったかわかりません。ただ飯炊奉公めしたきぼうこうに来た男ですから、権助ごんすけとだけ伝わっています。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
実をいうと実務というものは台所の権助ごんすけ仕事で、馴れれば誰にも出来る。実務家が自から任ずるほどな難かしいものではない。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
提灯ちょうちんを持って迎えに行った権助ごんすけが、新鳥越の路地に人立ちがあるんで、何の気もなしに覗いてみると、師匠のお政が殺されているんだそうじゃありませんか。
娘に、油町の辻新つじしんという大店おおだな権助ごんすけを養子にして舂米屋つきごめやをさせ、自分たちは二階住居をしていた。
追い追いの文明開化の風の吹き回しから人心うたた浮薄に流れて来たとのなげきを抱き、はなはだしきは楠公なんこう権助ごんすけに比するほどの偶像破壊者があらわれるに至ったと考え
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
楠正成の湊川における戦死は決して権助ごんすけ縊死いっしにあらざりしなり(福沢先生明治初年頃の批評)、南朝は彼の戦死によりて再び起つべからざるに至れり、彼の事業は失敗せり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
何か隣の北方という村に、むかし権助ごんすけとでもいう男がいたのではないかと思っていた。
新聞が先に立って、狂介々々と呼びずてにするから、市中のものまでが、やれ狂介権助ごんすけ丸儲まるもうけじゃ、萩のお萩が何じゃ、かじゃと、つまらんことを言いはやすようになるんじゃ。怪しからん。
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
晃 鐘をく旦那はおかしい。実は権助ごんすけと名を替えて、早速おまんまにありつきたい。何とも可恐おそろしく腹が空いて、今、鐘を撞いた撞木しゅもくが、つえになればいと思った。ところで居催促いざいそくというかたもある。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋山先生ははかま股立ももだちをとって飛出した。生徒もみんな加勢に飛出した。表通りからも、裏通りからも、番頭さんや小僧や、権助ごんすけさんまでが火事と間違えて駈けつけてきた。
すると権助ごんすけ不服ふふくそうに、千草ちくさ股引ももひきの膝をすすめながら、こんな理窟りくつを云い出しました。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
通旅籠町と改名されたおり大丸に長年勤めていた忠実な権助ごんすけが、主家の大事と町札を書直して罪せられたという、大騒動があったというほどその店は、町のシンボルになっていた。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日はさすがに権助ごんすけも、はつの御目見えだと思ったせいか、紋附もんつきの羽織を着ていますが、見た所はただの百姓と少しも違った容子ようすはありません。それが返って案外だったのでしょう。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一軒のお茶受けにも、店の権助ごんすけさんが、かごをもって来たり、大岡持ちをもってくるので、一釜位では一人の注文にも間にあわなかった。忙しい忙しいとお其はいって、鼻の横を黒くしていた。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)