日除ひよ)” の例文
こわい物見たさの人だかりは、さっきから、そこの軒ばの日除ひよけ棚をへだてて蠅のむらがりみたいに騒いでいたが、そのうちに
私は急にヘルメットや日除ひよ眼鏡めがねを買つた。母親から護符を貰つた。合歓ねむの花ざかりを夢想したり銀相場を調べたりした。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
僕の目を覚ました時にはもう軒先のきさき葭簾よしず日除ひよけは薄日の光をかしていた。僕は洗面器を持って庭へ下り、裏の井戸いどばたへ顔を洗いに行った。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
晴天つづきの後とて雨具の用意がない。屋根から洩れ、正面から吹き込む。日除ひよけの幕を一面に引廻わして防いでも、吹き込む雨にびしょ濡れに濡れる。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
歩いている人たちは、あわてて、道の両側にある店の日除ひよけの下へ逃げこんで、びっくりしてあとを見送っていました。それよりも、おどろいたのは御主人です。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
私は平生いつも引く寢臺のカアテンを引き忘れてゐた。そして窓の日除ひよけも下ろすのを忘れてゐた。
半七は日除ひよけのように白地の手拭をかぶって、観世物小屋の前へ来かかると、善八と亀吉はひと足さきに来て、なにげなく小屋の看板をながめていた。勿論たがいに挨拶もしない。
蓑が元来雨衣であることは今記した通りであるが、暑い地方ではこれを日除ひよけにも用いた。薩摩さつま地方の「ひみの」の如きいい例である。もとより「日蓑」の義であって、夏の日除である。
蓑のこと (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
しかし、道で道路工事をしている人々や、日除ひよけ付きの牛車をいている人々が、どこの種族とも見受けられない、黒光りや赫黒あかぐろい顔をして眼を炯々けいけいと光らせながら、半裸体で働いている。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこには長椅子だの背中あわせの大椅子だの日除ひよけだの、そのほかたくさんの東洋的なしろ物がそなえられているが、それらは、婦人部屋ハーレムの女たちやシナ帝国の柔弱な国人のために発明され
日除ひよけの簾戸すどで暗く感ぜられる角座敷かどざしきの入口に足を踏み入れた時、わたしは正面に坐つてゐる青木の父親をチラと見た。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
僕等のいるのは何もない庭へ葭簾よしず日除ひよけを差しかけた六畳二間ふたまの離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺うみべに多い弘法麦こうぼうむぎだけはまばらに砂の上にを垂れていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これが日除ひよけのすだれをとほして室内から見えるのである。壁紙が暗緑なので、エルアフイ夫人にはそれが窓の外に茂つた木立の延長のやうに感ぜられた。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
保吉は少しからだげ、向うの窓の下をのぞいて見た。まず彼の目にはいったのは何とか正宗まさむねの広告を兼ねた、まだ火のともらない軒燈けんとうだった。それから巻いてある日除ひよけだった。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕の両側に並んでいる町は少しも銀座通りと違いありません。やはり毛生欅ぶなの並み木のかげにいろいろの店が日除ひよけを並べ、そのまた並み木にはさまれた道を自動車が何台も走っているのです。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)