数間すうけん)” の例文
旧字:數間
二十八、九歳の職人風の男が、いつのまにやって来たものか、わたしのいるところから数間すうけんはなれた岸に、佇んでいるではありませんか。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その実数間すうけんの距離しかなかったのですが、パッと眼界が開け、そこには、彼女が思わず驚きの叫声を立てた程、世にも雄大な景色が拡がっていたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ふといきをついたが、ふと気がついてみると、そこは奉行ぶぎょう小屋の裏手うらてらしく、すぐ向こうから十数間すうけんのあいだには、ズッと鯨幕くじらまくがはりめぐらしてあって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かしこみて願い奉りようよう切符を頂戴して立ちいずれば吹き上ぐる朝嵐に藁帽わらぼう飛んでぬかるみを走る事数間すうけん
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
軈て僕の乗った自動車は三十マイルの最大速力をゆるめると共に一つの角を曲りました。警笛を四隣のビルディングに反響させ乍ら、自動車は憲兵隊本部の衛門の前、数間すうけんのところに止りました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
パイロット・フィシュに囲まれた一匹のふかを眼前数間すうけんに見いだすというはなわざをまで演じ、その年末モスクワに帰って来ると「咳が出る、動悸どうきがする」などと一しきり泣きごとを並べたくせに
見よ前方数間すうけんのところに一条ひとすじの縄が道に引っ張られてあるではないか。
いつの間にどこから来たものか、五六人の人間が、数間すうけんはなれた一所に、一緒に塊まって立っていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
純白の髪を肩へたれ、純白の行衣ぎょういを身にまとい、一尺ばかりの一本歯の下駄、そいつをはいた修験者で、かんのついた鉄杖てつじょうをつき、数間すうけんのかなたを人波を分け、悠々と歩いて行くのである。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)