憂慮きづかわ)” の例文
と少し膝を浮かしながら、手元を覗いて憂慮きづかわしそうに、動かす顔が、鉄瓶の湯気の陽炎かげろうに薄絹を掛けつつ、宗吉の目に、ちらちら、ちらちら。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しばらくは早瀬の家内、火の消えたるごとしで、憂慮きづかわしさの余り、思切って、更に真砂町へ伺ったのが、すなわち薬師の縁日であったのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い身体からだをぴッたり附着くッつけて、突当りのその病室の方をのぞいてね、憂慮きづかわしそうにしているから、声をかけて閉めて貰って
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余り意外な事の体に、答うるすべなく、黙って流眄ながしめに見ていたが、果しなくこうべもたげず、突いた手に畳をつかんだ憂慮きづかわしさに、棄ても置かれぬ気になって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うららかさも長閑のどかさも、余りつもって身に染むばかり暖かさが過ぎたので、思いがけない俄雨にわかあめ憂慮きづかわぬではなかった処。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お杉は心も心ならず、憂慮きづかわしげに少年のさまみまもりながら、さすがにこの際くちれかねていたのであった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この血にえてうめく虫の、次第にいきおいを加えたにつけても、天気模様の憂慮きづかわしさに、居ながら見渡されるだけの空をのぞいたが、どこのか煙筒えんとつの煙の、一方に雪崩なだれたらしいくまはあったが
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
憂慮きづかわしければぞ問いたる。小親は事も無げに
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ええ、御病気。」と憂慮きづかわしげに打傾く。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)