怱忙そうぼう)” の例文
老エフィゲニウスの身近怱忙そうぼうを加うべきを思い、我らは今一度姫の死に涙の黙祷を捧げて後、やがて再び別邸への道を辿たどった次第でありましたが
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
遠い山からそれを見ると、勤勉な蟻——物を考へたり声を出したりしないところの、あの怱忙そうぼうな行列に酷似してゐた。
村のひと騒ぎ (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
怱忙そうぼうのうちにも無名丸は、船出としての喜びと希望とを以て、釜石の港から出帆して、再び大海原に現われました。
わたくしは再び眼を上げて、はすの枯茎のOの字の並べ重なるのを見る。怱忙そうぼうとして脳裡のうりに過ぎる十八年の歳月。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
日頃、政務に追われ、怱忙そうぼうの日を送っている俗情は、どこか遠い山のへ消えさってゆく感じだったのである。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
試験は何時いつも、はなは曖昧あいまいな答案を書いて通過する、卒業論文のごときは、一週間で怱忙そうぼうの中に作成した。
羅生門の後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
都に住む怱忙そうぼうの若者らは、いまさらに野の清い広さにしみ入って眺めた。津の人は和泉の人の誰にいうとも分らないこの言葉にも、一応なにか答えぬわけには行かなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
先年怱忙そうぼうのみぎりに、移住を日程にのぼした彼らが、さきの家老に一切をまかして、命じて開拓主事とした。その意見をたしかめることが、邦夷の思想を動かぬものにすることであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
梅颸もそれぞれの客に女性らしい久濶きゅうかつをのべた。母子は怱忙そうぼうな半日を、同じ室でまったく対外的に暮して、その間に、荷を出したり、松蔭に雑務を依頼したりして、やっと、午後の三十石船に移った。
梅颸の杖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)