きょう)” の例文
死は怖れないが、いたずらに死を急ぐ彼ではない。また、貴人の名分にとらわれて、敵の雑兵と戦うにきょうなる右大臣家でも決してない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう思った私は、三月二十一日の午後、筑後丸の舷梯に登る時にも、雨風に浪立った港内を見ながら、再びわが長野草風画伯の海にきょうなる事を気の毒に思った。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なんのために勇をふるうかといえば、義のためにするのである。義を見てなせばこそ勇としょうすれ、不義と知りながら行えば、いかに奮闘してもそれはきょうたるを免れぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「それから?……獏は性きょうにして、深林に孤棲こせいし、夜間出でて草木の芽などを食す。いやまだ食うものがある。人間が夜見る夢を食うことを忘れちゃいけない。産地は馬来地方……」
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
もとよりこの一組の少年たちのうちにも、勇なるものときょうなるものとがあります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
むしろ之をきょうとなしてしりぞけている。治国の事はこれを避けて論外にく。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きょうとはいったい何んだろう? 勇とはいったい何んだろう?」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(人には、勇ときょうのべつがあるばかりではなく、同じ勇にも、優劣のちがいがあるものと思われます)
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
して己れの心をそのまま存する者はこわがりもせぬ。怖気おじけは自己の心を離るるより起こる。漢字で立心扁りっしんべんに去る(きょう)布く()芒ふ(ぼう)をつけてこわがるの意を現すもゆえありというべし。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)