御供物おくもつ)” の例文
被告の妻の手から竹駒稲荷大明神の御供物おくもつと称して、モルヒネを混入せる菓子を与えて、その発作的胃神経痛の疼痛とうつうを鎮めて以来
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
文反古ふみほごにて腰張こしばりせる壁には中形ちゅうがた浴衣ゆかたかかりて、そのかたわらなる縁起棚えんぎだなにはさまざまの御供物おくもつにぎわしきがなかに大きなる金精大明神こんせいだいみょうじんも見ゆ。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
御供物おくもつは毎日山の如く集まるので、食慾を満たすには何んの不自由もありませんが、床の間に日がな一日、お人形のように黙って坐っている辛気臭さは
祖母は信仰も何もないのですが、昔気質むかしかたぎですから、初午はつうまには御供物おくもつをなさいました。先住は質屋の隠居だったといいますから、その頃にはよく祭ったのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
文吉ぶんきち藤治郎とうじろう多藏たぞう彌五右衞門やごえもんの七人に買って来て呉れてえ頼まれて、御守が七つ御供物おくもつが七つある、それはえが金が二十両脇から預かって、小さい風呂敷に包んで金がある
つぼみと、それを包むとうとは、赤と白とを市松格子形いちまつこうしがた互層ごそうにして、御供物おくもつの菓子のように盛り上っている。花として美しく開くものは、つぼみとしてまず麗わしく装わねばならなかった。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
「やっと御供物おくもつを供えるお祈りが始まったぐらいなものだよ、どうしたって」
御機嫌にさからった時は、必ず人をもってわびを入れるのが世間である。女王の逆鱗げきりんなべかま味噌漉みそこし御供物おくもつでは直せない。役にも立たぬ五重の塔をかすみのうちに腫物はれもののように安置しなければならぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
救うには、竹駒稲荷大明神の御供物おくもつ、お神酒みきと言って医薬を施すより他には途がないものと思ったからで御座います。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
祠は急ににぎわい出した。或る農婦の、一昼夜も断続していた胃痙攣いけいれんが、その御供物おくもつの一つの菓子でぴったりと止んだからだった。そして森の中には白い二本の大旗が立った。
或る部落の五つの話 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)