徒然つくねん)” の例文
お勢母子ぼしの者の出向いたのち、文三はようやすこ沈着おちついて、徒然つくねんと机のほとり蹲踞うずくまッたまま腕をあごえりに埋めて懊悩おうのうたる物思いに沈んだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二人は徒然つくねんとして相対した儘、言葉少なに郷里の事を思出してゐた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
新聞を拾読ひろいよみしていたお政は眼鏡越しに娘を見遣みやッて、「欠びをして徒然つくねんとしていることはないやアね。本でも出して来てお復習さらいなさい」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
秋の日影もややかたぶいて庭の梧桐ごとうの影法師が背丈を伸ばす三時頃、お政は独り徒然つくねんと長手の火鉢ひばちもたれ懸ッて、ななめに坐りながら、火箸ひばしとって灰へ書く、楽書いたずらがき倭文字やまともじ、牛の角文字いろいろに
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は部屋で独りランプを眺めて徒然つくねんとしているようで、心は中々忙しかった。婚礼に呼ばれて行ったとすると、主人夫婦の帰るのには未だが有る。帰らぬうちに今一度雪江さんと差向いになりたい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)