庭樹にわき)” の例文
母鳥ははどりは直ぐに来て飛びついた。もう先刻さっきから庭樹にわきの間を、けたたましく鳴きながら、あっちへ飛び、こっちへ飛び、飛騒とびさわいでいたのであるから。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何をするか知らぬと思う間もなく、三日半も干乾ひぼしにして庭樹にわきの枝に縛り付けてあった囚人しゅうじん目がけてズドンと一発放つや否や、キャッという叫び声。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
座敷も常よりは明くなりたるやうにて庭樹にわきの影小鳥の飛ぶ影の穏かなる夕日に映りたるもまた常よりはあざやかなる心地す。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いや、庭樹にわきしげり、雨の点滴てんてき、花の開落などいう自然の状態さえ、平凡なる生活をして更に平凡ならしめるような気がして、身を置くに処は無いほど淋しかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
此の空地あきちにはふんだんに雑草が茂っている。なんぼ息子の為に建ててやる画室でも、かの女の好みの雑草は取ってしまうまい。人は何故なぜに雑草と庭樹にわきとを区別する権利があったのだろう。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大家おおや庭樹にわきのかげには一本の若竹が伸びて、それに朝風夕風がたおやかに当たって通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)