庚申堂こうしんどう)” の例文
が、庚申堂こうしんどうを通り過ぎると、人通りもだんだん減りはじめた。僕は受け身になりきったまま、爪先ばかり見るように風立った路を歩いて行った。
年末の一日 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
徳次に教えられた通りに、海辺の大通りを右へ切れると、庚申堂こうしんどうのそばに小さい草履屋が見いだされた。一人の男が店に腰をかけて、亭主と将棋をさしていた。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やがてかさ一つ、山のおおきくさびらのようになった時、二人はその、さす方の、庚申堂こうしんどうへ着いたのである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現代政治のとり方は、庚申堂こうしんどうに建ててある、三猿の石碑いしふみそっくりだ。見ざる聞かざるいわざるだ。将軍家よ見てはいけない。人民どもよ見てはいけない。将軍家よ聞いてはいけない。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茶臼山より庚申堂こうしんどうに備えたる真田勢を一気に斬り崩し、左衛門尉幸村をば西尾仁左衛門にざえもん討ち取り、御宿越前みしゅくえちぜんをば野本右近うこん討ち取り、逃ぐる城兵の後を慕うて、仙波口より黒門へ押入り旗を立て
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その回向堂は、また庚申堂こうしんどうとも呼ぶが、別に庚申を祭ったのではない。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多人数たにんずに囲まれてかよった時、庚申堂こうしんどうわきはんの木で、なかば姿をかくして、群集ぐんじゅを放れてすっくと立った、せいの高い親仁おやじがあって、じっと私どもを見ていたのが、たしかに衣服を脱がせた奴と見たけれども
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)