巌畳がんじょう)” の例文
三間巾の海水堀、高い厚い巌畳がんじょうな土塀、土塀の内側うちがわの茂った喬木、昼間見てさえなかの様子は、見る事が出来ないといわれていた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
出はいりなく平らに、層一層と列をととのえ、雲までとどかせるつもりの方尖碑オベリスク巌畳がんじょういしずえでもあるかのような観を呈した。
恐ろしく巌畳がんじょうなアーチ形に出来た家々の門の前には遅く帰った人達が立って、呼鈴よびりんの引金を鳴らしていた。家番やばんもぐっすり寝込んだ時分であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小虎の鋭い叫びと殆ど同時に、巌畳がんじょうってある藤蔓縄が、ぷつりとれた。小虎は水音凄まじく新利根の堀割に落ちた。竜次郎の驚きは絶頂に達した。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
馬鹿固い英吉利イギリスの人の仕事だけに、巌畳がんじょうな点は可笑しいほど巌畳を極めたものに相違ないけれど、要するに、送る途中だけ用に足りればいいのだから、第一
栄太の死体が納豆売りの注進によって発見されたのは、今日の引明けで、表土間の血溜りから小僧が不審を起したのであった。家は内部なかから巌畳がんじょうに戸締りがしてあった。
硝子の破れる音は彼もうつつに聞いて知っていたが、あんなに巌畳がんじょうだったドアがこんなにまで破壊し尽されたことを昨夜少しも知らずにいたことが彼を気味わるがらせた。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
裏も表も、いつも門扉はかたく閉まったままで人の住んでいる気配もない家なのであるが、めずらしく、こういう声がして、巌畳がんじょう手斧削ちょうなけずりの窓格子に、美しい顔が二つ並んだ。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ロダンは花子の小さい、締まった体を、無恰好ぶかっこうに結った高島田のいただきから、白足袋に千代田草履を穿いた足のさきまで、一目に領略するような見方をして、小さい巌畳がんじょうな手を握った。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それ等のアフォリズムは僕の気もちをいつか鉄のように巌畳がんじょうにし出した。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
巌畳がんじょうな支那の中年男が、酸漿ほおずきのしぼんだようなものを何本となく藁束わらたばに刺したのを肩へ担いで、欠伸あくびみたいに大きくゆっくり口を開けるたんびに、円い太い声が
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
婆やの方へ行って若い時は百姓の仕事をしたこともあるという巌畳がんじょうな身体へも取付けば、そこに居るか居ないか分らないほど静かな針医の娘を側に坐らせた節子の方へも行って取付いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
律師は偏衫へんさん一つ身にまとって、なんの威儀をもつくろわず、常燈明の薄明りを背にして本堂のはしの上に立った。たけの高い巌畳がんじょうな体と、眉のまだ黒い廉張かどばった顔とが、ゆらめく火に照らし出された。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この闘牛トウロスをいよいよ最後の運命地、市内の闘牛場へ運び入れるのがまた大変なさわぎだ。どこまでも猛獣という観念を尊重し、巌畳がんじょうおりへ入れて特別仕立ての貨車で輸送する。
巌畳がんじょうな体格の女で、リモオジュから主婦の手伝いに巴里へ出て来たばかりのころはいかにも田舎臭い娘であったが、その人がもう一度田舎の方へ帰って行く頃には見違えるほど巴里の風俗を学んで
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
九郎右衛門は自分の貰った銭で、三人が一口ずつでもかゆすするようにしていた。四月の初に二人が本復すると、こん度は九郎右衛門が寝た。体は巌畳がんじょうでも、年を取っているので、容体ようだいが二人より悪い。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)