屠腹とふく)” の例文
と、武士もののふの死出を笑って、誓願寺せいがんじの曲をひとさし舞い、舞い終るとすぐ舟のうちで屠腹とふくしたと、後の世までの語りぐさに伝わっている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慚恚ざんい以て屠腹とふくして死するに到り、延いて戊辰ぼしんに及ぶまで、長州において一低一昂したるにかかわらず、遂に打破的革命派の全勝を以て局を結べり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
任を負いかねて屠腹とふくしたと言う説、それらのいろいろの憶説の中にあって、最も広く流布されたものは、品川御殿山八万坪を無用の地との見地から
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
自分から仕掛けた試合に負け、これを悲憤し、自宅へ帰るや、紙帳の中で屠腹とふくし、腸を紙帳へ叩き付けて死んだ。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
正行は、「ああ、我事終れり」と嘆じて、弟正時と相刺し違えて死んだ。相従う十三余士、皆屠腹とふくして殉じた。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
郁之進 (狂乱して)殿! お気を確かに——私はこの場に屠腹とふくして、お詫びつかまつります。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その当事者によってなされた仕事が、もしもまずく行ったならば、取りも直さずそのものが屠腹とふくしてびねばならぬとする道徳でもって。その際方針が間違っていたなぞと考えてはならぬ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
夜半になったら、妹を刺し、自分も屠腹とふくして潔く世を辞そうと覚悟していた。
武道宵節句 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ただ遺憾いかんなるは脇屋わきや某が屠腹とふくを命ぜられたる事を聞き、かかる暴政ぼうせいの下にありては何時いついかなる嫌疑けんぎをうけて首をられんも知れずと思い、その時筐中きょうちゅうおきたる書類しょるい大抵たいてい焼捨やきすてました
そして彼もすぐ屠腹とふくすべく短刀をにぎったが、なおその室がまったく焔と化しきるまでは、らんらんたる眼をくばって信長のしかばねを守っていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし空想を許されるなら、何者か紙帳の中で屠腹とふくし、はらわたを掴み出し、投げ付けたのが紙帳へあたり、それがうねり、それが飛び、瞬時にして描出したような模様であった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
玉木慚憤ざんぷん禁ずるあたわず、屠腹とふくして死せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
号泣ごうきゅうの声が城に満ちた。いたずらに彼の屠腹とふくをかなしむのではない。人の死は日々眼にも見、耳にも聞き、おのれの死もそれと変らぬものと常にている人たちである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉之助へ一封の遺書かきおきを残し、弓之進が屠腹とふくして果てたのはその夜の明方あけがたのことであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐ、兄の月清も屠腹とふくした。さらばと、末近左衛門もつづいて自刃した。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「離しません。あなたに屠腹とふくさせるくらいなら、何を苦しみましょうか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに一切を闇に附し、一身を屠腹とふくして、子孫にぶ。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
急に屠腹とふくして、俯伏うっぷした。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)