寝静ねしずま)” の例文
旧字:寢靜
二時を打った時計の余韻が、寝静ねしずまったホテルの廊下にたゆたいながら消えて行った、——そのとたんであった、静かな闇の何処どこからともなく
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
渡邊祖五郎はしきりに様子を探りますが、少しも分りません、夜半よなかに客が寝静ねしずまってから廊下で小用こようしながら見ますと、垣根の向うに小家こやが一軒ありました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
再びきこゆる怪しい物音は、寝静ねしずまった真夜中の深い闇の静けさを破ってどこからともなく聞えてきた。
けれども、欄干に乗出して、も一つ橋越しに透かして見ると、門は寝静ねしずまったようにとざしてあった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鶴子が良人にって始めて洋行の事を打明けたのは次の夜も世間は既に寝静ねしずまった頃であった。進はどこかで飲んで来た酒の酔も一時にめるほど驚いたらしいのを、わざとさりなく
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その晩私は大蔵大臣の宅へ帰り、その翌日すぐセラの僧舎へ帰りまして夜分人の寝静ねしずまってから、法王に対する上書じょうしょを書きました。これは事いよいよ露顕に及んだ時の用意のためでございます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
此方こなたは例の早四郎が待ちに待った今宵こよいと、人の寝静ねしずまるをうかごうてお竹の座敷へやって参り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)