密々ひそ/\)” の例文
二人は、裏畑の中の材木小屋に入つて、積み重ねた角材にもたれ乍ら、雨にしめつた新しい木の香を嗅いで、小一時間許りも密々ひそ/\語つてゐた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
判事は書記に差図を与え目科は警官と密々ひそ/\語らう最中なりしかば、余はとがめられもせず又咎めらる可しと思いもせず、いと平気に、いと安心して
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
立るとは云ものゝ餘り物堅ものがたき人かなと文右衞門がうはさをなし夫に付ても娘お幸はさぞかしつらつとめならんなどと密々ひそ/\はなしの折から親分の武藏屋長兵衞は長八殿どのうちにかと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
平次も妙にギヨツとした心持で立ちすくみました。若い男と女が、納戸の後ろで、何やら密々ひそ/\と語り合つて居るではありませんか。しかも、二人共、涙を流して居るのです。
実は召仕めしつかいのお國と宮野邊の次男源次郎ととくより不義をしていて、先月あとげつ廿一日お泊番とまりばんの時、源次郎がお國のもとへ忍び込み、お國と密々ひそ/\話して居る所へうっかりわたくしがお庭へ出て参り、様子を聞くと
彼等かれらはさういふことをすら口々くち/″\反覆くりかへしつゝ密々ひそ/\耳語さゝやいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
今朝出社した時、此二人が何か密々ひそ/\話合つて居て、自分が入ると急に止めた。——それが少からず渠の心を惱ませて居たのだ。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
聞居たりしがやがて一人の男は相手あひての肩にのぼりて難なくへいの中へ忍び入りまたかたへ乘たる男はへいの外に待居けるに程なく忍び入たる男出來りて何か密々ひそ/\さゝやきしが其の男は西の方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
先に立つ女兒こども等の心々は、まだ何か恐怖に囚はれてゐて、手に手に小い螢籠を携へて、密々ひそ/\と露を踏んでゆく。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
しながら片隅かたすみへより何か密々ひそ/\はなあひついと半四郎のそばへより是もし息子むすこさん御前は是から何處へ行つしやると云に半四郎は何心なくわたしは是から夜通しに松山迄參りますと云つゝ胴卷どうまき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何か密々ひそ/\話し合つて笑つた事、菊池君が盃を持つて立つて來て、西山から聲をかけられた時、怎やら私達の所に坐りたさうに見えた事、雀躍こをどりする樣に身體を搖がして
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
密々ひそ/\と話聲が起りかけた。健は後ろの方から一つ咳拂ひをした。話聲はそれで又鎭まつた。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それでも仲々階下したにさへしぶつて、二人限きりになれば何やら密々ひそ/\話合つては、袂を口にあてて聲立てずに笑つてゐたが、夕方近くなつてから、お八重の發起で街路へ出て見た。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うしてるうちに、一人二人と他の水汲が集つて來たので、二人はまだ何か密々ひそ/\と語り合つてゐたが、軈て滿々なみ/\と水を汲んで擔ぎ上げた。そして、すぐ二三軒先の權作が家へ行つて
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)