容貌かお)” の例文
炎のような憎悪!——普通の容貌かおをしている者への、強いにくしみ——それが、大次の眼光に、道場での木太刀取りに、突き刺すように感じられる。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この夜、燈火ともしびの下で、総司とお力とは、しめやかに話していた。従軍を断念したからか、総司の態度は却って沈着おちつき、容貌かおなども穏やかになっていた。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
床上げをした日に、お互いに容貌かおを見合って、年齢としをくらべてみましたが、何方どちらもめっきり老けたようでした。
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
かれはふらふらと背後へ倒れかかると、その妻の手に抱かれた、かれの容貌かおは見る見るうちに蒼ざめて行った。
或る少女の死まで (新字新仮名) / 室生犀星(著)
コロとさせるには、初心うぶっぽくまず見せかけて、次に大事なのがいまいった五つの条件。一が拍子合ひょうしあい、二がお容貌かお、三がいちもつ、四がお金、五が暇のあること
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに第一あんな事になろうとは思ってませんので容貌かおやその他のこまかな事は判らなかったで御座居ます
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
特別大きな帽子を被っているので、容貌かおは分らないが、たしかに美人ではなさそうでした。
耳香水 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
もし別の人間なら「そんな紛らわしい容貌かおをしているだけでも人騒がせで公安に害ある」
消えた花婿 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
ホノ/″\と紅味を含んだ厚肉の頬のあたりを熟々つらつらながめて、予は又た十年の昔、新聞社の二階で始めて見た時を思ひ浮べた。彼の頃の翁の容貌かおには「疲労」の二字を隠くすことが出来なかつた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
その冷ややかな陰の水際みぎわに一人の丸くふとッた少年こどもが釣りをれて深い清いふちの水面を余念なく見ている、その少年こどもを少しはなれて柳の株に腰かけて、一人の旅人、零落と疲労をその衣服きもの容貌かおに示し
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
悲しみの為か心なしやつれの見える夫人の容貌かおは、暗緑の勝ったアフタヌーン・ドレスの落着いた色地によくうつりあって、それが又二人の訪問者にはたまらなく痛々しげに思われた。
花束の虫 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「お容貌かおだってとてもとても。もしわたしが若けりゃあ捨ててなんかおきはしない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中でひときわ目立つのは狩装束に身を固めた肥満長身の老人で、恐ろしいほどの威厳がある。定紋散らしの陣帽で顔を隠しているので定かに容貌かおは解らないものの高貴のお方に相違ない。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこともなく零落の影が容貌かおの上に漂うている。
まぼろし (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
春の訪れをかたくこばんで、昼もしとみをおろし、鏡は袋に、臙脂皿べにざらや櫛ははこのうちにふかくひそめられたまま、几帳きちょうの蔭に、春はこれからのうら若い佳人が、黒髪のなかに珠の容貌かおを埋めて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
確かに十四年前だな? ……これ娘顔を上げろ! おおいかにも酷似そっくりだ! 夏彦の容貌かお酷似そっくりだ! 因果な娘よ不義のかたまりよ、立って十字架クルスの前へ行け! そこにある首級くびがお前の親父おやじだ。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
貂蝉は、喪心そうしんしているもののように、うつろな容貌かおをしていた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
容貌かおは、母御前ははごぜに似よ。血は父に似よ」と、口ぐせにいった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから容貌かおにうつるのだった。
八寒道中 (新字新仮名) / 吉川英治(著)