妥当だとう)” の例文
詩を書く人を他の人が詩人と呼ぶのは差支さしつかえないが、その当人が自分は詩人であると思ってはいけない、いけないといっては妥当だとうを欠くかもしれないが
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
人が、もしこれを性の欲望に関する変態のものだったろうと言うなら、あるいはそうかも知れないと答えよう。丁度ちょうど年頃としごろもその説を当嵌あてはめるに妥当だとうである。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
無論これは、父のような思想の持ち主にとっては、きわめて妥当だとうな、また真面目なことであったのには相違ない。
偶然であったか、あるいは不可思議なる天の摂理せつりであったか、明智の病気が、この物語りに意外な、しかもまた考え様によっては、はなは妥当だとうな結末を与えた。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は民藝に正しい出発を与えるために、手工藝を地方産業として選ぶ事が、最も妥当だとうであると考える者です。なぜならその道は工藝を侵す多くの罪悪から遠いからです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
義貞がいうには、いまは後宮にいる身でもないに、なお内侍とは妥当だとうでない。これからは麗子と呼ぼう——と、三条高倉亭の奥では、そんなはなしも二人の間にできている。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕がこう記すと、中には僕の気の弱さをわらう人があるかもしれない。だが、それは妥当だとうでない。あの凄絶無比の光景を本当に見た者でなければ、その正しい判定は出来ないのだ。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ベースボールいまだかつて訳語あらず、今ここにかかげたる訳語はわれの創意にかかる。訳語妥当だとうならざるは自らこれを知るといえども匆卒そうそつの際改竄かいざんするによしなし。君子くんし幸にせいを賜え。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)