大蝙蝠おおこうもり)” の例文
陽が西の海に入って、麺麭パンの大樹のこずえ大蝙蝠おおこうもりが飛び廻る頃になって、ようやく此の男は、犬猫にあてがわれるようなクカオ芋の尻尾と魚のあらとにありつく。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
空には灰汁あくをぶちまけたような雲がひろがって、それを地にして真黒な龍のような、また見ようによっては大蝙蝠おおこうもりのような雲がその中に飛び立つように動いていた。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
するとね、夜目で判然はっきりとは目にらなんだが地体じたい何でも洞穴ほらあながあるとみえる。ひらひらと、こちらからもひらひらと、ものの鳥ほどはあろうという大蝙蝠おおこうもりが目をさえぎった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青い光は、大蝙蝠おおこうもりのような『荒鷲』の黒い翼に吸いついた。パチパチと音を立てて翼が焼ける。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
人穴城ひとあなじょう竹童ちくどうと初対面のときに、問答もんどうちゅうにかれがやってみせたことのある、呂宋兵衛得意の口術こうじゅつ、いま、いて糸をわたらせた金蜘蛛は、壁にはりついている大蝙蝠おおこうもりのそばへはいよったが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アリゲエタアや大蝙蝠おおこうもりの剥製だの、かものはしの模型だのの間で三造は独り本を読んでいる。卓子の上には次の鉱物の時間に使う標本や道具類が雑然と並んでいる。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
黒色の翼は大蝙蝠おおこうもりの羽のようだ。機首には大きな二つの眼がギラギラ光っている。そして胴体の横腹には、赤い色をした荒鷲が爆弾をくわえている、気味の悪い絵が描いてあるではないか。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
図書 御天守の三階中壇まで戻りますと、とびばかりおおきさの、野衾のぶすまかと存じます、大蝙蝠おおこうもりの黒い翼に、ともしびあおぎ消されまして、いかにとも、進退度を失いましたにより、灯を頂きに参りました。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)