壁龕へきがん)” の例文
壁には名匠の油絵や、天鵞絨ビロードおおわれた壁龕へきがんがところどころに設けられて、大食堂も廊下も大舞踏室もことごとく、内庭の芝生に臨んでいる。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼女は何一つ話すこともなく、一度席に坐ると、まるで壁龕へきがんの中の彫像のやうに、身動きもしないでゐた。姉妹は、二人共、純白のよそほひをしてゐた。
それは非常に小さいので、遠くからは聖人像を納めることになっているから壁龕へきがんのように見えた。説教者は手すりからまる一歩とさがれないにちがいなかった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
また壁龕へきがんから出て来るたくさんのもの、十二使徒、皇帝カルル五世、エポニーネとサビヌス(訳者注 ローマ人の覊絆からゴール族を脱せしめんと企てた勇士夫婦)
昏睡こんすいや睡眠からさめた者に与えるまったくの暗闇の効果というものはこんなに強いものなのだ! 角というのはただ、不規則な間隔をおいたいくつかの凹み、あるいは壁龕へきがんにすぎなかった。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
あるものは壁龕へきがんのなかにひざまずき、あたかも神に祈るようだった。あるものは墓の上に身を長くのばし、両手を敬虔けいけんに固くあわせていた。武士たちは甲冑かっちゅうすがたで、戦いがおわって休んでいるようだ。
溜りというよりも、小窓を切ってカーテンをかけ、油絵を飾って植木を並べて、天鵞絨ビロード張りの腰掛けがあるから、壁龕へきがんというのが当っているであろう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
陰鬱いんうつ壁龕へきがんは、彼女の部屋の窓にちょうど向いあって口を開いているのだ。
長い廊下の壁龕へきがんには油絵が懸って、大きな花瓶は枝もたわわに紅紫とりどりの花を乱れ咲かせていた。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)