嚮導きょうどう)” の例文
その時、かねて校庭に養われて、嚮導きょうどうに立った犬の、恥じて自ら殺したとも言い、しからずと言うのが——ここに顕れたのでありました。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嚮導きょうどうをしたという山中の異人は、面赤くして長八尺ばかり、青き色の小袖こそでを着たりと、『今昔物語』には記している。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
……てなわけで、むしろ、手前がご嚮導きょうどう申しあげて登りたいくらいなンでござります。ナニ、多寡たかの知れたるモン・ブラン、なにほどのことがありましょう。
一行には、半蔵が親しい友人の景蔵、香蔵、それから十四、五人の平田門人が軍の嚮導きょうどうとして随行して来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
亡くなった彼の友は、彼にとっては、一種の兄であり、青春の伴侶はんりょであり、崇拝してる嚮導きょうどう者であった。
また、同じ刻限、天王寺表の嚮導きょうどう、石川伊豆守、宮本丹後守等三百余人が平野の南門に着した。見ると、そこの陣屋の門が、ぴったり閉めてあって入りようがない。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
経験は何ら私達を嚮導きょうどうするものではない。経験のなかに確信を求めるくらい馬鹿々々しいことはない。
嚮導きょうどうに立って、帝のさきを歩いて行った髪の真っ白な島武士は、小迎こむかいの住人近藤一族のあるじなのだ。老人は一代の晴れに感奮してでもいるようなかたい表情であった。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして両翼りょうよく嚮導きょうどうによって整頓せいとんを正され終わると、そのあとはかべのように動かなくなった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それより覚人君嚮導きょうどうの下に楠窓、一朗両君と倫敦市中一見、デンマーク街の常盤本店にて休息。タフネルパークロードの常盤別館に入る。駒井権之助、朝日新聞社古垣鉄郎氏来訪。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
大使岩倉いわくら右大臣、副使木戸きど参議、大久保内務卿、伊藤工部大輔以下七十名。開拓使女子留学生たちもまじっている。駐日公使デ・ロング夫妻が、晴れの嚮導きょうどう役となって、同船している。
黒田清隆の方針 (新字新仮名) / 服部之総(著)
ただし『今昔物語』十一や『弘法大師行化記ぎょうけき』に、大師初めて南山に向った時、二黒犬を随えた猟人から唐でげた三の行き先を教えられたとあり、この黒犬が大師を嚮導きょうどうしたらしいから
此国を巡狩して山路に矛をてしに、其矛忽ち光を放ち、又其光飛んで止まった所に至ると老翁が現れて、吾是猿田彦命也、嚮導きょうどうを為さんと欲するが故に此に来ったということになっている。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
未来に向って走る川との間にはさまって、池はとこしえに無言でいる、自分たち二人(自分は嚮導きょうどう兼荷担ぎの若い男を伴っている)だけが確に現在である、我らはのろわれているのではないかとおもう
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
忽然、一羽の白鷺が森の頂きへ現われたが此方こなたへ悠々と舞って来る。とその鷺を嚮導きょうどうにして数百羽の小鳥翼を揃え、同じくこっちへ翔けて来たが、三太夫の頭の上まで来るとパッと八方へ飛び散った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
P51、約六十機と嚮導きょうどうのB29、二機。しかし機影を見ず。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ景蔵は言葉のはじに、総督嚮導きょうどうの志も果たし、いったん帰国した思いも届いたものだから、この上は今一度京都へ向かいたいとの意味のことをもらした。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旅店で……どちらもはじめてだが、とにかく嚮導きょうどうだから……女中が宿帳を持参すると、八郎はその職業という処へ——「能職のうしょく。」としたためた。かれは能役者である。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女は一人放任され、嚮導きょうどう者がなくなって、自分の自由さに眩惑げんわくした。彼女には反抗してぶつかってゆくべき主人が必要だった。それがない場合には造り出さなければならなかった。
無事に嚮導きょうどうの役目を果たして来た十三人の美濃衆は、同じ門人仲間の半蔵の家に集まることをよろこびながら、しばらく休息の時を送ろうとしている。その中に、中津川の景蔵もいる。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しくいつくしき明神の嚮導きょうどう指示のもとに、化鳥の類の所為しょいにもやと存じ候——
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)