咎人とがにん)” の例文
まるで咎人とがにんが申開きをするようだなと、話しながら自分でも苦々しい気がしたが、おすえの顔は見るまに明るく、いきいきとしてきた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それが、何故なぜかというと、三誠社という馬車うまぐるまを扱う大きな運送店があって、その前身が、伝馬町の大牢の、咎人とがにんの引廻しの馬舎うまやだったというのだ。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
伊賀いが上野うえのは旧藤堂とうどう侯の領分だが藩政の頃犯状はんじょうあきらかならず、去迚さりとて放還ほうかんも為し難き、俗に行悩ゆきなやみの咎人とがにんある時は、本城ほんじょう伊勢いせ安濃津あのつ差送さしおくるとごう
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
それは、月番のときは、大抵毎日のように、咎人とがにんの顔を見ているために、自然その人間の容貌ようぼうとその人間の性格とを、比較して考えるようになったのである。
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
坊主とも道士ともつかない変な頭になってしまった。お前は自業自得で仕方がないが、巻添えを食ったわたし達をどうしてくれるんだえ。活き腐れめ、咎人とがにん
風波 (新字新仮名) / 魯迅(著)
惨苦そのもののごとき農民に雑り、総帥めかしく采を揮うこと、後ろめたく良心に恥ずるの、一揆嗷訴もさることながら、それ以上に勢いはやらば、咎人とがにんいよいよ多く出で
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
言うに言われぬわけあって、夫殺しの咎人とがにんと、死恥しにはじさらす身の因果、ふびんとおぼし一片の、御回向ごえこう願い上げまする、世上の娘御様方は、この駒を見せしめと、親の許さぬいたずらなど
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
咎人とがにんだよ、あれは。ろくなことを、しやしない。要らないことを、そそのかして、さうしてまたのこのこ、平気でここへ押しかけて来て、まるで恩人か何かのやうに、あの、きざな口のききやうつたら。
火の鳥 (新字旧仮名) / 太宰治(著)
婦女誘拐罪ゆうかいざい咎人とがにんだよ、あれは。ろくなことを、しやしない。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)