否々いやいや)” の例文
否々いやいやをして、かぶりをふって甘える肩を、先生が抱いて退けようとするなり、くるりとうしろ向きになって、前髪をひしと胸に当てました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
否々いやいや、僕はそれを責めているんじゃない、むしろ妹さんの行方不明になった事が、僕のためには重大な役に立った事を感謝したいくらいなんだ」
亡霊ホテル (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
千代子は笑いながら否々いやいやをして見せた。僕はさらに姿勢を正しくして、受話器を彼女の手から奪おうとした。彼女はけっしてそれを離さなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或は今夜此筆をさしおく迄には、何等か解決のはしを発見するに到るかも知れぬが、……否々いやいや、それは望むべからざる事だ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あられの音か。否々いやいや。馬のひづめの音だ。何という高い蹄の音であろう。何というはやい馬であろう。あれ、王宮の周囲まわりを街伝いに、もう一度廻ってしまった。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
うみの親の事は忘れたのであろうか。否々いやいや万作夫婦の前では左もないが、ひとり居る時は、深く深く思案に沈むことがある。其時は直ぐ歌う。如何にも悲しそうに歌う。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
エキスパンダアをどけてやはり鑵の背後にないのをみると、否々いやいや、ひょッとしたら、あの道端みちばた草叢くさむらのかげかもしれないぞと、また周章あわてて、駆けおりてゆくのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
否々いやいやむしろ坊ちゃんなのである。色が白く血色がよい。栄養の行き渡っている証拠である。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
否々いやいや、まだほっとするには早い。合戦はまさにこれからだ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はっしと床へ叩きつけた……か⁉ 否々いやいやその時おくればせに這いあがったメリケン壮太が、後から毛唐の首へ腕をまわして、喉輪のどわ責めに締めあげた。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
御払おはらいになるなら」と少し考えて、「六円に頂いておきましょう」と否々いやいやそうにを付けた。御米には道具屋の付けた相場が至当のように思われた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
否々いやいや。彼等はもうとっくの昔に私のこうした決心を感付いている筈である。そうして私を第一番に片付けてから、第二第三の仕事にかかる予定にしていなければならぬ筈である。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
悪いたくみをしている証拠! 動きの取れない証拠でござんす! 何が不足、何が不満で聞くも恐ろしい謀反沙汰内通沙汰をなされたのか? ああ否々いやいやそれを聞いたとて今は仕方ござんせぬ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
否々いやいや大財産家だいざいさんかの細君でございます。」
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)