同情おもひやり)” の例文
同情おもひやりは妙なもので、反つて底意を汲ませないやうなことがある。それに蓮太郎の筆は、面白く読ませるといふよりも、考へさせる方だ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
同情おもひやりの深い智恵子は、宿の子供——十歳とをになる梅ちやんと五歳いつつの新坊——が、モウ七月になつたのに垢みた袷を着て暑がつてるのを、いつもの事ながら見るに見兼ねた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
この場合その周囲が、世間がもつと同情おもひやりのある眼で、この女流芸術家を見送つてやつたなら、須磨子は啜り泣きをしながらも、その寂しい旅を続けたかも知れなかつた。
少しは憐れだと云ふ同情おもひやりがあつたつてよさ相なもであるとも云つて見たい。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
小米こよねさんを殺すなんて悪心が有つたのでは無いと云ふやうに思へましたよ、矢つ張裁判官でも人ですから、少しは同情おもひやりがあると見えますわねヱ、だから阿母おつかさん、余り心配なさらぬがよう御座んすよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
あゝ、先輩の胸中に燃える火は、世を焼くよりもさきに、自分の身体をき尽してしまふのであらう。斯ういふ同情おもひやり一時いつときも丑松の胸を離れない。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
神様といふものは随分費用のかゝるものだが、その中で新教プロテスタントの神様は質素じみで倹約で加之おまけ涙脆なみだもろいので婦人をんなには愛されるほうだが、余りに同情おもひやりがあり過ぎるので、時々困らせられる。
殊に丑松の同情おもひやりは言葉の節々にも表れて、それがまた蓮太郎の身に取つては、奈何どんなにか胸にこたへるといふ様子であつた。其時細君は籠の中に入れてある柿を取出した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もつと画家ゑかきなどいふものは、無駄口と同情おもひやりひとばい持合せてゐる癖に、金といつては散銭ばらせん一つ持つてないてあひが多いが、さういふてあひは財布をける代りに、青木氏を自分のうちに連れ込んで