各自てんでん)” の例文
此の空地を斜に横ぎツて、四十人に餘る生徒が、がんが列を亂したやうになツて、各自てんでん土塊つちくれを蹴上げながら蹴散らしながら飛んで行く。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
謹むのではない笑うので、キャッキャックックッ、各自てんでんがあっちこっち、中には奥へ駆込んで転がるまで、胡蝶ちょうちょう鸚鵡おうむが笑う怪物ばけもの屋敷の奇観を呈する。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
外部から見たKと私は、何にも前と違ったところがないように親しくなったのです。けれども腹の中では、各自てんでん各自てんでんの事を勝手に考えていたに違いありません。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
是に反しては、各自てんでんに體面を傷ツけるやうなものだ。でいづれもほてツた頭へ水を打決ぶツかけられたやうな心地こゝちで、一人去り二人去り、一と先づ其處を解散とした。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
やがて夏も過ぎて九月の中頃なかごろから我々はまた学校の課業に出席しなければならない事になりました。Kと私とは各自てんでんの時間の都合で出入りの刻限にまた遅速ができてきました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも総曲輪一円は、露店も各自てんでんに持場がきまって、駈出かけだしには割込めないから、この空地へ持って来たに違いない。それにしても大胆な、女の癖にと、珍しがるやら、あやしむやら。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうど、まだあかしを入れたばかりの暮方くれがたでね、……其の高楼たかどのから瞰下みおろされる港口みなとぐち町通まちどおりには、焼酎売しょうちゅううりだの、雑貨屋だの、油売あぶらうりだの、肉屋だのが、皆黒人くろんぼに荷車をかせて、……商人あきんどは、各自てんでん
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)